激戦!オープンウオータースイミング 日本メダル獲得のシナリオ

競泳 2019年10月17日
激戦!オープンウオータースイミング 日本メダル獲得のシナリオ

東京五輪のオープンウオータースイミング(Open water swimming =OWS)は、お台場海浜公園で行われ、25人の選手が予選なしの一発勝負でメダル獲得を目指します。日本の代表候補は2019年9月、男子が豊田壮選手、南出大伸選手、女子が貴田裕美選手、新倉みなみ選手の4人に絞られました。2020年5月末に行われる世界最終予選会で好成績を収めた男女1人ずつが、日本代表に内定します。
波や風の影響を受けながら、10kmを泳ぎ切る五輪のオープンウオータースイミングは、体力の消耗が激しいため、選手たちは終盤まで集団で泳いで体力を温存するのが一般的。リオ五輪の際の男子は、5秒以内に10人の選手がひしめき合いながらメダル争いをするという大激戦になりました。日本の平井康翔選手が8位に入賞した2016年リオ五輪の激戦の模様を動画で振り返ってみましょう。

高気温と高水温が予想される東京五輪も終盤まで団子状のレース展開になるとみられるため、「序盤で後れを取らなければ、日本人選手にも十分にメダルのチャンスがある」と日本オリンピック委員会 水泳/競泳 専任コーチングディレクターの藤森善弘さんは言います。日本代表の勝利へのシナリオを藤森さんに聞きました。

序盤:コバンザメのように先頭集団についていく

オープンウオータースイミング スタート

東京五輪のオープンウオータースイミングの会場は、台場公園と旧防波堤に囲まれたエリア。4つのブイで囲まれた1周あたり約1.66kmの四角形のコースを6周するコースになると、藤森さんはみています。

オリンピック会場の予想図
オリンピック会場の予想図


藤森善弘コーチ
スタート直後は、選手が一斉にポンツーン(浮き桟橋)から飛び込んでブイを目指すので、団子状になると予想しています。ここでは極力、ほかの選手にぶつからずに進みたいですね。理想は次のブイに対して、外側からコバンザメのように先頭集団に付いていくこと。トップになる必要はなく、1~2周目は25人中、10番以内に入ることを目指します。

藤森善弘コーチ
日本オリンピック委員会 水泳/競泳 藤森善弘コーチ


藤森善弘コーチ
集団の外側に出られず、集団の中に囲まれてしまうと他選手を追い越すのが難しくなります。手足がぶつかって体力をロスするリスクも高いので、避けたいですね。もしそうなってしまった場合は、ぶつからずにすり抜ける技術が求められます。

貴田裕美選手
貴田裕美選手

藤森善弘コーチ
それは、スペースになりそうな場所をうまく見つけ、スルっとそこに入り込む、空間をうまく使う力なんですが、貴田裕美選手が優れています。貴田選手はオープンウオータースイミングのレース経験が豊富で、他選手たちに囲まれてもスペースを見つけ、切り抜けていきます。

中盤:体力を温存しながら駆け引きを重ねる

密集して泳ぐ選手たち

藤森善弘コーチ
3〜4周目の中盤は、ラストスパートに向けて、体力を温存しながら駆け引きを重ね、徐々に順位を上げていきます。ここでのキーワードは「ドラフティングと計算力」ですね。ドラフティングとは、前の選手の後ろにぴたりと付き、前の選手が生み出した水流に乗って推進力を得て泳ぐことで、体力を温存する泳法のことです。

新倉みなみ選手
新倉みなみ選手

藤森善弘コーチ
計算力は、戦術を計算しながら戦う力のこと。例えば、「この選手は少し右に寄って行く傾向があるから、自分もそれに合わせてドラフティングをキープ。様子を見つつ、次のブイで、こう追い越そう。その時点で自分の残りの体力はこれくらいだから、泳速はこれくらいで、その次は……」という感じです。女子は、新倉みなみ選手が理論派で、常に計算しながら泳ぐことができます。

終盤:ラスト400mでスパートをかける

激しい順位争い

藤森善弘コーチ
終盤の5~6周目は、ドラフティングで体力を温存しつつ、先頭集団の3~4番目になんとか食らいつき、ラスト400mでスパートをかけたいところ。求められるのは、純粋に「泳ぐ速さ」、スピードです。近年は、6.5kmあたりから世界のペースが急激に速くなっています。それも6.5km、7.2km、7.8km、8.4km、9.0km、9.6kmと、600mごとにスピードアップし、ラスト400mは競泳並みの速さになります。

豊田壮選手、南出大伸選手
豊田壮選手(左)、南出大伸選手(右)


藤森善弘コーチ
泳速があるのは、南出大伸選手と豊田壮選手ですね。南出選手は1500mでも活躍し、持久力もスピードも持っている二刀流の選手です。豊田選手はスパート力とコース取りに優れています。そしてゴールですが、タッチ式のゴール板が水面より50cmほど高い位置にあるので、水を蹴って上体を浮かせるキック力がものを言います。豊田選手はこのキック力が高いので、最後の最後、タッチの差の勝負になると期待できます。

メダル獲得のカギを握る「給水」

2016年 リオ五輪 競泳女子10kmマラソンでの給水の様子
2016年 リオ五輪 競泳 女子 10kmマラソン

さらに、レース中、絶対におろそかにしてはいけない重要な要素があると言います。それは「給水」。2時間に渡って海を泳ぎ続ける過酷なオープンウオータースイミングでは、陸上のマラソンや競歩などと同じように、こまめな給水が不可欠です。選手たちは、FIのレーシングカーがピットに入るように、1周ごとにコースを外れてポンツーン(浮き桟橋)に行き、そこでコーチから給水ボトルを受け取って、泳ぎながら水分を補給します。

ポンツーン(浮き桟橋)から差し出される給水ボトル


藤森善弘コーチ

給水ボトルの補給をミスして水分や栄養分を補給できないと脱水症状を起こして、ラストスパートができないこともあります。また、給水の度に選手はコースを外れるので、大回りをしてしまうと順位を大幅に下げてしまうこともあります。ですから給水は、勝負のカギを握っていると言っても過言でないほど、重要なんです。

藤森善弘コーチ

オープンウオータースイミングの給水シーンは、リオ五輪の際、「さかな釣りみたい」と大きな話題になりましたが、それは、規定により給水ボトルを投げ入れることができないため。コーチは「給水竿」の先に給水ボトルを括り付けて選手に渡します。「給水竿」は、5m以内とされていますが、ほかに規定はなく、各チームで用意しているんだとか。

日本代表チームが使用している「給水竿」
日本代表チームが使用している「給水竿」

藤森善弘コーチ
実は、日本チームは実際に釣り竿を使っています。適度にしなる釣り竿を選び、先端に鉛筆立てを縛り付けてそこにペットボトルを入れられるように作ります。選手が最短距離できちんと給水ボトルを受け取れるよう、コーチ同士は桟橋の上で激しい場所の取り合戦を繰り広げるんです。激しいぶつかり合いでコーチが海の中に落ちてしまうなんてこともあるくらいなんです。

日本代表チームは、給水の際のロスタイムを最小限にとどめるため、オリンピックに向けて給水の練習も繰り返しているそうです。メダル獲得の期待がかかるオープンウオータースイミング、コーチと選手の絶妙の給水コンビネーションも見逃せません。

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