パラカヌー世界選手権2019で印象に残ったあれこれ

カヌー 2019年9月5日
写真:パラカヌーレース中の瀬立モニカ

8月下旬、ハンガリー・セゲドで開催されたパラカヌーの世界選手権。
瀬立モニカ選手が、今大会、カヌー日本人第1号で東京への切符を獲得しました。

写真:ハンガリー・セゲドのカヌー会場


実はこのパラカヌーの世界選手権は、パラ種目と五輪種目が同時に開催されている世界でも珍しい大会です。
そんな世界選手権で印象に残った出来事を紹介します。


■“東京2020切符” カヌー日本人第一号は瀬立モニカ!

写真:パラカヌー競技中の瀬立モニカ


向かい風が吹く中、女子200メートル決勝(KL1)で、瀬立モニカ選手が58秒93のタイムで5位に入り、6位以内に与えられる東京パラリンピックの切符(内定)を見事に掴みました。予選と準決勝では、追い風ながら共に54秒台の好記録を出しました。

3年前のリオデジャネイロパラリンピックの瀬立の成績は、予選が1分10秒129、準決勝が1分09秒073、決勝が1分09秒193で8位入賞でした。気象状況が異なるので単純比較はできませんが、リオからの3年間で、記録もフィジカルも飛躍的に進化しています。


写真:パラカヌー競技中の瀬立モニカ

競技終了後に瀬立は「ただ、ひたすら苦しい練習を重ねてきました。東京の出場枠をとってくるという最低限の目標は達成できました。東京パラリンピックでは一番いい色のメダルをとれるようにこの一年、しっかり頑張っていきたいと思います」


■張り詰めた空間が柔らかく?!

写真:カメラマンであふれるカヌー撮影ポジション

僕たちカメラマンは「競技を真正面から撮影できるように」と、湖の中に特別に設けられたポンツーンという浮台に、岸からボートで渡り撮影します。その小さな湖上の撮影ポジションは、所狭しとカメラマンたちがひしめき合い、いつも張り詰めた空気があります。
選手たちがゴールした後、瀬立選手は何度も「うれしい~!うれしい~!うれしい~!」と大きく声をあげました。その表情は、他の上位選手たちと比べても、比較にならないほどの喜びようでした。
競技に専念するために大学を休学していた瀬立選手、覚悟を決めてひたすら厳しい練習に取り組んだ努力が結実した瞬間でした。カメラマンたちはそのフォトジェニックな様子に一斉にレンズを向けます。

写真:ガッツポーズをする瀬立モニカ


その喜びの撮影がひと段落した後、他国のカメラマンたちが僕に向かって「日本人、おめでとう!」「素敵な表情だ!」と、握手を求めてきたり、ハグをしてきたりしました。選手の最高のパフォーマンスは、緊張感に包まれたカメラマン席の現場まで溶かしてくれます。


■瀬立選手の最大のライバルは?!

写真:Maryna MAZHULA選手(ウクライナ)


瀬立選手の最大のライバルとなるのは、今大会で優勝したウクライナのMaryna MAZHULA選手です。去年の大会では、体格が大きく屈強なイメージでしたが、今年はぎゅっと上腕部を絞り力が増した印象が。今大会の予選では、なんと51秒台という驚異の記録を叩き出しました。
ただ、瀬立選手とMAZHULA選手、去年の世界選手権決勝のタイム差が5秒でしたが、今年は『3秒弱』にまで縮まってきています。


■パラ種目と五輪種目が、同時開催の意義

写真:カヌーフランスチーム


この大会は、パラ種目と五輪種目が同時に開催されている素晴らしい大会です。なので、大会前にはパラ選手と五輪選手が談笑している姿や、一緒に記念写真に納まっている様子を「珍しいなあ」と感じていました。しかし、いざ大会がはじまってしまうと、そんな風に思った事すら忘れてしまったぐらい、同時開催の違和感はありませんでした。
この写真は、フランスチーム。左の青のフニフォームを着ている人は、五輪選手とスタッフ関係者、中央の白のユニフォームが、パラ選手とスタッフ関係者。右の赤ユニフォームがスタッフ関係者。全体をよーく見ると、なんとトリコロール(左から青・白・赤)になっています。

写真


大会に観戦に来ていた、ハンガリーの大学で勉強している日本人学生たちに、この大会の印象について聞いてみました。


「パラリンピックということで、失礼な話、健常者の人と比べて弱々しいと思っていたが、全然そんなことなくて、見ないとわからないなと思った。確かに健常者とはスピードは違うけど、腕の力強さは変わらない」

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新種目・ヴァ―のVL3クラス 男子200m予選。 片脚切断などの選手が多いこのクラスは、スピードに乗るとどんどん加速していった


「自分にハンデがあったとしてもこういう舞台で戦えるんだなと思い感動した」「今まで障害者のスポーツはメディアに取り上げられていないが、一緒に行うことで、よりポピュラーになるはず」「両方見れてとても良かった」「健常者でも障害者でも、この競技のプロフェッショナルであることに変わりはない。分ける必要もない」

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KL3クラス 女子200m予選。ウズベキスタンのMIRZAVE選手(手前)。朝、バスで会った時から、音楽を聴き、すごく集中していた。予選は圧倒的強さを見せ1位通過。決勝でも47秒29のタイムで優勝

近い将来、パラカヌー以外でも、このようなパラ種目と五輪種目が一緒に行われる大会が世界のスタンダートになってくるのではないかと思わせてくれるような素晴らしい大会でした。

写真家 越智貴雄

写真家 越智貴雄(おち・たかお)

2000年のシドニーパラリンピックから国内外のパラスポーツの撮影取材活動を続けている。2012年、陸上アスリートの競技資金集めの為、セミヌードカレンダーを1万部出版し国内外で話題となる。2013年9月のブエノスアイレスでの2020東京オリンピック・パラリンピック招致最終プレゼンテーションで映し出された「跳躍の写真」が話題になる。2014年、義足を美しくかっこよく履きこなす女性たちを撮影した写真集「切断ヴィーナス」を出版。2017年、寝たきりのお笑い芸人“あそどっぐ”さんの写真集「あそどっぐの寝た集」を出版。取材活動の他にも写真展開催や義足女性によるファッションショーなど、多数開催している。NHK-BS1「パラ×ドキ」に出演中。

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