ドバイの月と松葉杖

陸上 2019年11月19日
写真:松葉杖を後ろ手に持ち背中を伸ばす選手

11月、ドバイで開催されたパラ陸上の世界選手権。

大会も終盤、連日の撮影の疲れも出てきた頃、超望遠レンズを使い、走り高跳び(T63クラス=膝上切断)で次に試技するポーランドのウカシュ・マムチャシュ選手にフレームを合わせていました。
彼は、太もも部分を切断していて、両手の松葉杖2本を使いながら歩行しています。


すると・・・
「ん?」
おもむろに、1本の松葉杖で足を支えて、もう1本を横にして肩に添えた。
「なんで?」

写真:ドバイの風で揺れる旗と黄色く輝く月

何か起こっているのかをすぐには把握できず、カメラのフレームを、一度、上空にあげて、
たまたま、出ていた月にフレームを向けカメラのピントが合っているかを確認。

写真:肩に松葉杖をかつぐマムチャシュ選手

そして再び、フレームを下に戻します。
「んんっ?」
身体をひねっている?
「まさか…」


もう一度、冷静に考えるために、カメラのフレームを上に。
次は、会場に掲げられたフラッグと月を撮影してみました。

写真:旗に隠れる月

いやいや、月を撮影している場合じゃない、撮らなければと、すぐに彼にフォーカス。
さらに身体を大きくひねった!
「間違いない、準備体操だ」


これまでの僕の人生で、松葉杖に良い思い出はありませんでした。
中学の時、体育の授業で足を骨折して、3か月、松葉杖を使いましたが、その時のつらかったこと。腕肩の筋肉をとにかく使うし、挟む脇も青あざができるぐらい腫れてくるし。松葉杖は怪我した時、“仕方なし”に使う、補助道具だとしか思っていませんでした。


その松葉杖を準備体操に使うなんて。。。


彼が、松葉杖を準備体操に使っている様子を見つめていると、ジムに置かれているトレーニング用具に見えてきて、松葉杖がどんどんかっこよく見えてきます。
僕が持っていた松葉杖に対しての先入観や思い込みが、消えた瞬間でした。

写真:松葉杖を降ろすマムチャシュ選手
写真:背面跳びをするマムチャシュ選手

そして、さらに驚いたのは、準備体操の後、片足1本でけんけんしながら助走し、背面跳びでフワッと跳んだのです!
アスリートとして重ねたトレーニングに合わせて、普段、松葉杖を使っているせいか上腕部が発達しています。
大きく膨らんだ上腕部にグッと力を入れて、記録は1メートル80センチを跳びました。

写真家 越智貴雄

写真家 越智貴雄(おち・たかお)

2000年のシドニーパラリンピックから国内外のパラスポーツの撮影取材活動を続けている。2012年、陸上アスリートの競技資金集めの為、セミヌードカレンダーを1万部出版し国内外で話題となる。2013年9月のブエノスアイレスでの2020東京オリンピック・パラリンピック招致最終プレゼンテーションで映し出された「跳躍の写真」が話題になる。2014年、義足を美しくかっこよく履きこなす女性たちを撮影した写真集「切断ヴィーナス」を出版。2017年、寝たきりのお笑い芸人“あそどっぐ”さんの写真集「あそどっぐの寝た集」を出版。取材活動の他にも写真展開催や義足女性によるファッションショーなど、多数開催している。NHK-BS1「パラ×ドキ」に出演中。

おすすめの記事