沖縄に根を張り、しっかり東京パラ準備! パラカヌー・瀬立モニカの軌跡

カヌー 2020年2月19日
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沖縄の冬は、東京と比べると気温は暖かだが、北風が強い。そんな沖縄の海(大宜味村・塩屋湾)で12月から5か月間に及ぶ長期合宿をしているのが、パラカヌーの瀬立モニカ選手です。去年8月の世界選手権で東京パラリンピック内定を決めた瀬立選手は、東京パラリンピックのカヌー競技会場が海ということで、本番を想定して海での練習に力を入れています。

写真:カヌーをこぐ瀬立選手

冬の沖縄へ取材に行って驚いたことがありました。瀬立選手は、パラカヌーで障害が最も重いクラス(胸から下の筋力はなし)に属していて、波や風の影響を受けやすい状態ということもあり、昨シーズンは、波の影響で艇が流されて練習が出来なかったり、海上に出られなかったりしたこともありました。しかし、今シーズンの彼女は違っていました。瀬立選手と並走するコーチたちが乗るモーターボートが大きく揺れるような波の中でも、瀬立選手は力強くカヌーをこいで練習していました。

写真:トレーナーが瀬立選手の脚を抑え、瀬立選手の左腕を伸ばしている
写真:真剣な眼差しの瀬立選手
写真:力を込めている表情の瀬立選手

瀬立選手が、昨シーズンからトレーニングで特に意識しているのは、肩周りの動きだといいます。練習の前後には、練習時に撮影された動画を繰り返し見直します。ジムでのトレーニングも2日に1回のペースで行い、コーチやトレーナーらと共に、丁寧に何度も動きをチェックしながら身体を作っていきます。

写真:桟橋を“ウイリー”の状態で降りていく瀬立選手

東京に向けて、充実した練習の毎日を積み重ねている瀬立選手ですが、彼女をサポートするのは、コーチとスタッフだけではありません。この木で組まれたものは、瀬立選手が車いすでカヌーに乗りやすいようにと、“長寿の村”で知られる大宜味村の人たちが手作りで作った、岸から海まで伸びる車いす専用の桟橋です。

写真:桟橋の上で瀬立選手を囲む“おじさん”応援団

こちらは、瀬立選手が宿泊する宿の入口部分に作られた車いす用スロープ。宿の隣で商店を営む宮城金一さんが中心となり、村の人たちみんなで力を合わせて、丈夫なスロープを1か月がかりで作ったといいます。宮城さんは「モニカさんがここに来るのが楽しみで楽しみで。これまで小鳥小屋しか作ったことなかったのですが、試行錯誤をしながらなんとか間に合いました」と満面の笑みで話してくれました。

写真:ガジュマルの木の下で“応援団”と笑顔で語り合う瀬立選手

夕日が沈んだ頃から、瀬立選手の宿の目の前にある大きなガジュマルの木の下に村の人たちが集まりはじめ、焚き火を囲んで飲んだり食べたり話をしたりという宴会風景が毎日の恒例となっています。瀬立選手も、毎日、顔を見かけます。

写真:村の人と話す中、弾けるような笑顔を見せている瀬立選手
写真:湾から岸に戻ってくる瀬立選手を迎える応援団

村の人たちに瀬立選手のことについて話を聞くと「モニカさんはいつも笑顔で明るくて元気。モニカさんが来てくれて、村が明るくなった」。地区の取りまとめ役の知念さんは「彼女は明るくて地域の皆さんと仲良く交流してくれるので、私たちも温かく迎えています。モニカさんは地域の子どもみたいな感覚で捉えています。カヌーの応援はもちろんのこと、地域の人も何かにつけて差し入れしています。明るく活動する姿に、お爺さんお婆さん子ども達にも、障害があってもここまでできるという良い影響を与えています」と話してくれました。
瀬立選手のことを「キジムナー」(ガジュマルに宿る“妖精”の意味)と言う人もいます。なぜ、瀬立選手がここまで人を惹きつけるのかいうと、ひとつに笑顔があるのだと思います。
瀬立選手が高校生の時にけがをして落ち込んでいた時、お母さんから言われたのが「笑顔は副作用のない薬」という言葉。瀬立選手はこの言葉をとても大切にしています。瀬立選手の笑顔がポジティブの風を起こし、大宜味村の人たちを巻き込んで大きな渦が巻き起こっているように見えました。コーチやスタッフはもちろんのこと、すでに大宜味村の人たちも“チームモニカ”の一員のようです。

写真:サングラスをし、笑顔の瀬立選手。鍛えられた腕は筋骨隆々としている。
写真:静寂な水面の塩屋湾のカヌー乗り場からこぎ出そうとしている瀬立選手。
写真:画面中央に向かってカヌーをこいでいる瀬立選手。瀬立選手が進んだ水面の軌跡が広めの二等辺三角形のように美しく広がっている。

時には風がピタッと止む日もあります。瀬立選手がカヌーで進む水面には、美しい軌跡が現れます。東京パラリンピックまであと半年。瀬立選手は、東京の海でどんな模様の軌跡を描き出すのでしょうか。

写真家 越智貴雄

写真家 越智貴雄(おち・たかお)

2000年のシドニーパラリンピックから国内外のパラスポーツの撮影取材活動を続けている。2012年、陸上アスリートの競技資金集めの為、セミヌードカレンダーを1万部出版し国内外で話題となる。2013年9月のブエノスアイレスでの2020東京オリンピック・パラリンピック招致最終プレゼンテーションで映し出された「跳躍の写真」が話題になる。2014年、義足を美しくかっこよく履きこなす女性たちを撮影した写真集「切断ヴィーナス」を出版。2017年、寝たきりのお笑い芸人“あそどっぐ”さんの写真集「あそどっぐの寝た集」を出版。取材活動の他にも写真展開催や義足女性によるファッションショーなど、多数開催している。NHK-BS1「パラ×ドキ」に出演中。

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