パラリンピックの存在が、日常の豊かさに“変換”される

2021年1月7日
写真:両脚義足で走る選手

自動車メーカーが、F1などのモータースポーツで培ったテクノロジーを一般車(市販車)に応用するといった話は聞きますが、実は、パラリンピックでも似たような話があります。

それは、アスリートが使用する義足や車いすです。

世界的なパラアスリートが使う競技用の義足や車いすを作っているメーカーの多くが、日常生活用の義足や車いすの製作を中心にしています。

一方、パラリンピックで使う道具は、どこまでも速く、遠くへ跳ぶため、空気抵抗を受けないように考え、作られたものです。パラリンピックで開発された技術が、一般用向けの車いすや義肢装具の進化に影響を及ぼしています。

例えば、日本の競技用車いすを製作する車いすメーカーは「競技用で使用したアルミの材料を日常用に転用し、軽く薄くより頑丈なものが作れるようになった」と、実際に転用された事例を教えてくれました。日常用では壊れないものを作るのが大事で、そこに軽さと薄さが加わったことで、よりユーザーに良い商品を提供できるようになりました。

義肢装具メーカーが作った補装具(製品)を、義足ユーザーにフィットさせる義肢装具士で、スポーツ義足制作の第一人者である臼井二美男さんはこう話してくれました。

「パラアスリートが人間の限界に挑戦し続けることで、身体能力の限界、すなわち(障害があっても)出来ることの可能性について、知ることができる。これまでスポーツをしてこなかった義足ユーザーや、スポーツをしてみたいと思っていた義足ユーザーに、こんなことできる、あんなことできるよと提案し明言できる。
世界の舞台に立っている人が証明してくれているからこそ、自信を持って言える。身体能力の限界がわかることで、リハビリにも応用できます」。

写真:車いすのトラックレースに出場している筋骨隆々の女性選手

道具でもう一つ、面白い話があります。それは、開発時期です。パラリンピックなどの大きな大会の度に新しい技術が組み込まれた道具を見ることができます。2016年のリオデジャネイロパラリンピックでは、一般乗用車を制作している大手自動車メーカーがレース用の車いすを制作。これまでのものよりも空気抵抗を大幅に低減されたものを開発し、話題となりました。

このように、パラリンピックで使用される道具は、スポーツの世界だけではない広がりを見せています。ことしの東京大会では、どんな新しい技術が見ることができるのか楽しみです。

写真:自国の旗を背に広げる選手の前に群がるカメラマン

ちなみに、この話は僕の商売道具であるカメラにも同じようなことが言えます。プロ用のハイスペック機は、オリンピック・パラリンピックの年に発売されることが多く、普及版にもその技術が使われていることが多々あります。

ただ、いくら、道具が良くなっても、決して写真撮影が上手くなる訳ではありません。軽量化や技術の進化は素晴らしいことではあるのですが、その技術の高さに頼りすぎて、自身の感覚が研ぎ澄まされなくなるリスクもはらんでいます。
あくまでちょっとした選択肢が増えるくらいのことだと捉えなければならないことも、アスリートが使用するパラの道具と似ているかもしれません。

写真家 越智貴雄

写真家 越智貴雄(おち・たかお)

2000年のシドニーパラリンピックから国内外のパラスポーツの撮影取材活動を続けている。2012年、陸上アスリートの競技資金集めの為、セミヌードカレンダーを1万部出版し国内外で話題となる。2013年9月のブエノスアイレスでの2020東京オリンピック・パラリンピック招致最終プレゼンテーションで映し出された「跳躍の写真」が話題になる。2014年、義足を美しくかっこよく履きこなす女性たちを撮影した写真集「切断ヴィーナス」を出版。2017年、寝たきりのお笑い芸人“あそどっぐ”さんの写真集「あそどっぐの寝た集」を出版。取材活動の他にも写真展開催や義足女性によるファッションショーなど、多数開催している。NHK-BS1「パラ×ドキ」に出演中。

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