新型コロナ 障害特性ゆえの困難とどう向き合うか ボッチャ・知的障害競泳

競泳 ボッチャ 2020年5月13日
写真:東京パラリンピック日本代表に内定している、廣瀨隆喜選手、中村拓海選手(ボッチャ)、東海林大選手、山口尚秀選手(競泳)

新型コロナウイルスの感染拡大で、パラアスリートも先の見えない日々が続いています。選手への影響は、障害の種類や程度によってもさまざまです。
感染すると重症化しやすい基礎疾患のある選手や、気持ちのコントロールが難しい知的障害の選手たちはどんな状況なのか?今回はボッチャと競泳(知的障害)の監督・コーチに、障害特性ゆえの困りごとや、コロナ禍を乗り切っていくための工夫について聞きました。
※この記事は、2020年4月14日放送のハートネットTV「パラリンピック延期の影響は?」のために、4月8日に行われたインタビューを基に構成しています。


ボッチャ 村上光輝 日本代表監督

写真:オンライン画面に映る、村上光輝 ボッチャ日本代表監督


■体を守ることが強化の第一歩

―東京パラリンピックが来年に延期されて、選手の皆さんや村上監督は、どう受けとめていますか。

【村上】パラリンピックを一番の目標にしてましたので、ピークを逃してしまうというか、大きな目標が先に延びたという感じですね。実際に大会に負けたわけではないけれど、負けたような、ちょっとぽっかり穴があいたような感じがしています。
ただ、選手たちは、割と前向きに、今はこの状態の収束を待って、ここからまたスタートしましょうという意見が多いですね。

―新型コロナウイルスの感染拡大に対して、どのような対策をとってきましたか。

【村上】ボッチャの選手は、肺の機能が低いので、感染すると重篤になりやすいと言われています。感染してしまうと、かなり体にダメージがあるので、手洗い・うがいは基本の基本で、「それ以外でどのように対処していくかをアスリートとして考えましょう」と話し合い、今は健康が大事だということで、「強化よりも、まず体を守ることが強化の第一歩です」と伝えてきました。
公共交通機関をなるべく使わない。人が多いところに行くのは控える。ホテルや新幹線の利用は禁止しましたし、この4月現在によく言われている内容を、協会として2月末に選手へ伝えていました


■オンラインで選手自ら考える

写真:2016年のリオデジャネイロパラリンピックで表彰台に上るボッチャ日本代表(BC1/2)


―合宿も中止になり、対戦型の練習や団体戦の連携も難しいようですが、どのように選手たちとコミュニケーションをとっているのでしょうか。

【村上】(2016年、BC1/2団体戦で銀メダルを獲得した)リオの経験ではないですけど、「それぞれが頑張るっていうことではなくて、こういうときこそ、みんな一体になりましょう」と伝えています。最初はメールでやりとりしてましたが、やっぱりお互いの顔を久しぶりに見たいとなって、ビデオミーティングをしながら時間を共有することから始めています。
普段のミーティングなら、「こういう技術を上げましょう」という意見が出るんですけど、そうではなくて「今、こういう取り組みをしたら、みんな一緒の気持ちになれるんじゃないか」という意見が選手から出てきて、すごくうれしいです。例えば、まだパラリンピックが延期と決まってないときに、国際大会が早々に中止になったので、「国際大会がない中で、実際、ピークをつくるにはどうしたらよいか」「国内で大会をつくってほしい」「国内大会は、パラの日程に合わせて…」という意見が出てきて。
パラ本番の試合時間は夜7時ぐらいなので、「観客を呼んで夜に試合がしたい」「ただ、今の状況じゃ、呼べないのかな」と、選手たちが、この状況下で何ができる・できないと、自分たちのピークを迎えるための提案を計画をしていました。強化スタッフの「この日程で、計画、合宿を組みました」ではなくて、選手と一緒に、日程や試合も考えていくように取り組んでいます。

―選手からアイデアが次々と出てくる状況は、村上監督がずっと目指していて、(BC1/2団体戦世界ランク1位の)タイは選手も戦術のアイデアがどんどん出てくるから強いんだ、ということを常々おっしゃっていましたが、この状況でそうなるとうれしいのでは。

【村上】この状態って、ちょうど去年の12月ぐらいから出始めてきていて。いろんなところでしゃべっていたのが「1月か2月にパラリンピックがあったら金メダルとれる」と思っていたんです。なので、8月が早く来てほしいと思っていました。
これがすごくいい形で続けばいいですね。私がこうして話すだけじゃなくて、選手も肌で感じているから、ミーティングで活発に意見が出るのかな。離れているからこそ強くなってるという部分は、かなりあると思います


■コロナ禍を乗り切ることもトレーニング

写真:オンラインで村上監督にインタビューする中野アナウンサー


―来年の本番に向けて、監督としてどんなアドバイスをしていますか。
【村上】パラリンピックが延びて、ピークをつかむのが難しいと思うんですよね。今まで選手に伝えていたピーキングは、まず“4年に1度のパラリンピック”にピークを合わせること。あとは“一年単位”で、どの大会をどういうふうにピークを迎えていくかということ。あともう一つは“一つの大会”でどこにピークを持っていくかということ。細かく考えると、1試合の中でも絶対、ピークはあるんです。今、“ピーク”という言葉を使っていますが“大きな流れ”ですよね。
流れをどういうふうにつかむかというのが、ボッチャというスポーツではすごく大事だと思うのですが、感染に気を付けなくてはならず、練習ができなくて不安な中で、今の世間の流れをニュースなどで見ながら、「今、自分がどういう行動をするべきなのだろう」「迷ったらすぐ、誰に相談しようか」というような、今の状況の流れをつかむのもトレーニングの一つだということを、選手に伝えているつもりです。

―ほかのパラ競技と比べてもボッチャは重症化のリスクが高いなか、「健康が強化の一歩だ」と、みなさんがポジティブにとらえられる。一番のゆえんとは何でしょうか。

【村上】すべてが前向きなことではないかもしれませんが、“選手1人で全部を抱えていない”というところが、一つ大きいかなと思います。
例えば、健康面では、メディカルチェックなどで順天堂大学と連携したり、そこにチームドクターが関与して主治医と連携したりしています。進行性の疾患の選手もいる中で不安はゼロではないですが、アスリートたちもいつも体調が万全なわけではない。選手それぞれ1人で気をつけるのではなくて、みんなで提案しながら「こういうことをしたら良いのではないか」と相談できる環境が整いつつあるのが、前向きな意見につながっていると思います。


競泳(知的障害) 谷口裕美子コーチ

写真:オンライン画面に映る、谷口裕美子コーチ(競泳・知的障害)


■先の見えない不安が大きい知的障害

―東京パラリンピックの延期やコロナウイルスの感染拡大によって、知的障害の選手にはどんな影響が出ていますか。目標設定が難しかったり、予定が変わったりすることで動揺しやすい選手もいるのではないでしょうか。

【谷口】彼らは、ルーティン化されたものは非常に着実にこなせるんですけれども、突然の変化に弱いので、急な変更が受け入れられない、もしくは、しょっちゅう変わってしまうというのが理解できない選手が多い。そうすると、イライラしたり、集中できなかったり、パニックになったりすることがありますね。ふだん、合宿や遠征に行っても「朝起きてから夜寝るまで、1日を通してこういう流れでやるよ」と、先が見通せる予定の伝え方をしています。先が見通せないと不安になる選手が多いので、決まっていたことがどんどん取りやめになってしまうのは、心の安定がなくなってしまう感じです。保護者の方に聞くと、練習をしていても、なかなか集中ができないというか、力が入らないというか、そういう気持ちの不安定さが出てしまうようです。

―1年延期という事実はどれくらい理解していますか。

【谷口】多分、延期の事実自体は理解していますけれども、具体的にどういうことなのか、もしくは、もう一回、どのように頑張れば良いかということについては、なかなか理解ができないようですね。特に、去年9月に世界選手権、ことしの3月に選考会、世界選手権からちょうど1年後にパラリンピック…というスパンがきちんと決まっていたんですね。
非常にわかりやすかったんですけれど、春先の国際大会も取りやめになり、ことしは夏の大きな国際大会はなく、その上での1年延期なので、なかなか目標が立てづらいと思います。きつい練習も、「あそこでメダル取りたいよね」「何秒、出したいよね」という言葉がけで気持ちをもっていくやり方が多いので、それが当面ないとなると、ただ練習をしなくてはいけない、というところが難しいでしょうね。

― 一方で、大きな大会に対して、すごくプレッシャーを感じてしまう選手もいると思いますが、延期でプレッシャーが一時的になくなった人もいますか。

【谷口】確かに、選手によって個性があって、目の前の苦しさから解放されてよかったという選手もいます。ただ、それは先延ばしになっただけなので、その先を想像をすることが難しい選手が多いですね。今、その場的には、「あ、よかった」という感じなんですけども、その先が想像できているかというと、そうでもないみたいな。


■オンラインでつながることのできない選手も

写真:プールで選手たちにタイムを見ながら指導するコーチ陣

ハートネットTV「熱戦!アジアパラ競技大会~東京パラリンピック活躍のカギは」(2018/10/25)より、合宿の模様

―全国各地から定期的に集まって一緒に切磋琢磨してきた合宿も、今はできない状況ですね。

【谷口】合宿でみんなに会うというのは、非常に意義が大きかったと思います。実際に顔を見て話すことのできる環境が、障害特性上、大事ですね。彼らの中の、“仲間意識”、たくさんしゃべったり、じゃれ合ったりといった、コミュニケーションが多いわけではないんですけども、その分、“心のつながり”があるみたいな。
選手の中には、「一緒にやってきたみんなに会いたい」というような話も聞きますので、同じものを目指しているっていうアスリートという意味では、本当に、お互いに大きな存在だと思います。

―オンラインでコミュニケーションをとる方法は、知的障害の選手にとっていかがですか。

【谷口】人にもよると思いますが、なかなか難しいです。インタビューをされていてもわかると思うんですが、しゃべるのに時間がかかる選手もいますよね。電話でも戸惑ってしまう選手もいます。対面で雰囲気を感じながらという選手のほうが多いですね。
必ずしも、言葉を話すのが上手ではなかったり、自分の気持ちを前面に出せる選手ばかりではなかったりするので。オンラインでコミュニケーションをとるのもいいのですが、そういう意味では、自分の気持ちを絵に描いてもらう、字を書いてもらうというほうが、多分、彼らの特徴には合ってるのかな、とも思います。


■ほっとできる居場所を取り戻したい

写真:オンラインで谷口コーチにインタビューする中野アナウンサー


―選手と直接会えないなか、指導者の皆さんはどのようなケアをしていますか。

【谷口】保護者を通じて選手の様子や練習環境を聞いています。今は、トレーニングの動画を配信したいと考えています。
ここ数年、ドライトレーニングといって、泳ぐ前の陸上トレーニングを育成、強化、代表選手と一貫してやってきました。習慣づけてやってきたものをこの時期にさらに発展させて、この時期にチャレンジしてみよう、という形で。動画に知ってるコーチやトレーナーが出てくると、笑顔になるかもしれないので。

―来年の本番に向け、どのように進んでいきたいですか。

【谷口】昨晩(4月7日)、「緊急事態宣言」が出たので、そこからさらに状況が変わっていきますよね。それまでは比較的泳ぐことができていても、全くゼロになってしまう選手もいますから、少しでもいいから練習できる環境を、連盟がどうやって提供できるかというところです。
収束のめどが立って、強化活動ができるようになったときに、彼らが戻ってきて、ホッとするような居場所をまずは作ってあげたいです。収束してから本番まで何か月になるかわかりませんが、彼らが力をうまく発揮できるように、開催地・地元の利を活かして、地元だからこそできることを、たくさん盛り込みたいと思っています。

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インタビューから1か月あまり。競泳の選手たちは今もプールで練習できない状態が続いています。谷口コーチは選手のメンタルを心配しつつ、一度配信したトレーニング動画の第2弾を作りたいと話していました。一方、ボッチャの選手も自宅でのトレーニングを余儀なくされるなか、オンライン上でボールを動かしながら戦術を磨き始めたそうです。

直接、顔を合わせる練習や合宿の場が失われた今回の事態。練習はトレーニングのためだけではなく、仲間とコミュニケーションを深め、互いのつながりを確認する場でもあったと改めて実感しました。介助者など周りのサポートが必要なパラアスリートにとって、人と距離を置かなければならないことは厳しい試練です。ただ、競技同様“残されたもので何ができるのか”、知恵を絞り工夫を重ねる姿もパラアスリートの魅力だと思います。
今、パラスポーツを通じて何を伝えられるのか、問われていると感じた取材でした。
(聞き手:中野淳)


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