パンデミック後のパラアスリート、パラスポーツ、そしてパラリンピックは? ~イギリス・イアン・ブリテン氏からのメッセージ

2020年6月24日
写真:イギリス・コベントリー大学准教授のイアン・ブリテン博士と、トレーニング中の義足のアスリート

新型コロナウイルスの影響下で、そして東京大会の1年延期という状況の中で、今どんなことが起きていると考えるべきか?
長年にわたり、パラスポーツやパラリンピックの研究を続けてきたイギリス・コベントリー大学 Assistant Professorのイアン・ブリテン博士に聞きました。

Dr. Ian Brittain

写真:イギリス・コベントリー大学准教授のイアン・ブリテン博士

英国コベントリー大学のAssistant Professor。障害とパラスポーツの社会学的、歴史的、そしてスポーツマネージメント的側面についての研究者、著者である。2000年のシドニー大会よりすべての夏のパラリンピックを現地調査。国際車いす切断者競技連盟(IWAS)のアドバイザー。『The Paralympic Games Explained』や『From Stoke Mandeville to Sochi: A history of the summer and winter Paralympic Games.』など、多くの著書を発表している。



Q:パンデミックによるパラアスリートへの影響をどう考えていますか?

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オランダ・アムステルダム郊外にあるオークミアスポーツセンター。パラ陸上のマーレーネ・ファンハンスウィンクル選手やフラー・ヨング選手のチームが拠点にしている施設の一つ。こうした場所を確保できていることが、彼女たちの活躍を支えてきた。(撮影:2020年2月)

他の人たちと同様、多くのパラアスリートたちがロックダウンと感染のリスクによって自主隔離(自粛生活)しなければならない状況へと陥りました。このことは明らかに彼らのトレーニングに影響を与えました。特にチームスポーツや特別な器具、装置を必要とする選手たちには影響が大きいと言えます。彼らは東京パラリンピックに向けて予選を通過し、パフォーマンスのピークを合わせるためにトレーニングや大会を計画していたわけですが、これは今や白紙に戻り再計画を強いられるでしょう。ただ、いつどこでトレーニングや予選大会が再開できるのかということがわかるまで、これらの計画を再設計することはできません。

障害がある人の多くが孤立に苦しんでいます。彼らにとってスポーツに関わることはソーシャルネットワークとして、そして外の世界とつながる方法として作用します。自粛生活は、この決定的な“リンク”を奪い、特に一人で暮らす人たちにとってはメンタルヘルスの問題や孤独にも繋がりかねません。

写真:イギリスのロンドンにある名門『レオンポール・フェンシングセンター』

イギリス・ロンドンにあるフェンシングの名門クラブ『レオンポール・フェンシングセンター』。車いすフェンシングの櫻井杏里選手が、健常の強豪選手の中に混ざり、練習拠点にしている。コロナ禍でクラブとしてはまだ再開していない。(撮影:2019年9月)

世界のパラアスリートの資金的状況には大きな不均衡があります。イギリスのような国では、オリンピック選手と基本的に同じ資金が与えられています。一方、他の国では全く何も受け取れないような選手もいます。それゆえにこのような状況下では、スポーツのトレーニングができるかという以前に、日々を生き延びるのに苦労する人もいるかもしれません。

いくつかの国においては、パラリンピック選手は障害者一般より資金などに恵まれた高いレベルのアスリートですが、それでも、彼らはこういった状況下では社会の隅に追いやられてしまいがちなグループの一部です。例えば、いくつかの国において、コロナウイルスのために人工呼吸器を必要とする人の間で、健常者が障害者よりも優先的に与えられるということが報道されていました。さらに、医療や必要な治療へのアクセスがウイルスへの対応にリソースが裂かれる中で制限されているということもありえます。

また、パラアスリートの一部は彼らの障害のせいで死に至る可能性のある、ぜい弱者のカテゴリーに格付けされていたことにも注意を払うべきです。さらに、黒人(Black)、アジア人(Asian)、エスニックマイノリティ(Ethnic minority)、いわゆるBAMEコミュニティの人たちが、他の集団よりもウイルスからのリスクが大きいということも報告されています。よって、BAMEのパラリンピック選手はウイルスによるリスクが2倍だったことも考えられます。彼らのトレーニングや東京大会に参加する可能性は、他のパラアスリート以上に大きな影響を受けているかもしれないのです。


Q:パンデミックはパラスポーツをどのように変えると予想しますか?

ウイルスによる本当の経済的な影響はまだ感じられるところまできていません。イギリスのGDPは来年ウイルスの直接的な結果として20−35%下がるという予測が出ています。同じことが世界の他の国でも繰り返されるでしょう。予選大会やNPC(各国のパラリンピック委員会)、選手個人をスポンサーする企業の体制を含めて、すべての人に大きな連鎖的影響があるでしょう。個々の選手はフィットネスやパフォーマンスのピークを持ってくること、そして東京大会に出場すること両方に必要なトレーニングや予選大会への出場ができるかということにも影響が及ぶでしょう。

それから、2つの大きなNPCがすでにスタッフの削減を発表したことを私は把握しています。これは大きな収入源の減少に伴うもので、どれほど綿密に人員削減が計画されたとしても大会のための選手の準備に影響を与えることに疑いはありません。これが世界中で起これであれば、特に発展途上国で起こるようであれば、東京大会への参加国の数は2016年のリオ大会より大きく減ることもありえます。それは予選大会や主なパラスポーツの大会においても同じです。

また、国によっては経済の再構築にフォーカスするために、スポーツへの資金を大幅に削減する可能性もあります。歴史的に見ても、最も大きな削減は重要でないとみなされるスポーツや分野において起こっています。障害者スポーツやパラスポーツは残念ながら大抵、削減リストの一番上にあるのです。


Q:パンデミックの後に大会を開催するにあたって気をつけるべきことはなんでしょうか?
大会運営において気をつけるべきことは、今の所私たちがまだ知り得ない要素によると思います。ウイルスが消え去ったのか、ワクチンが出来て機能しているのか、大会に出場する選手の出身国がそのときどういう状況になっているのかなどです。究極的に、私たちが考慮する必要のある最も重要なことは、大会に関わる人々の健康と安全です。特に、健康状態によってぜい弱と考えられる障害のある選手と観客の健康と安全です。

さらに、参加者の間に残る(感染への)恐怖の要因が大会のより楽しい側面にネガティブな影響を及ぼすということもありえます。例えば人々がチーム以外の人とは関わらない、あるいは一緒に来た友達以外の人とは交流しないと決めて、新しい人と出会い、世界中の人と友達になるのをやめてしまうようなことです。この恐怖の要因は選手の集中力を妨げてパフォーマンスに影響を及ぼすこともありえます。


Q:このような時代だからこそ、パラリンピックやパラスポーツが持っている価値というのはどのようなものがあるでしょうか?
価値はオリンピックと共通の部分が多いと思います。どれだけ過酷な状況でも自分の目標に向かう不屈の精神です。新しい状況に合わせて戦略を立て直す必要があります。すでにある状況に刃向かっても無意味なので、その状況下でできる事をする、あるいはその状況を避けて新しい道を見出すということです。
そしてみんなが一緒にこの状況に置かれているということ、だからこそみんなが助け合えばみんなにとって良い結果がもたらされるということです。

(取材:鈴木祐子 ロンドン在住)

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