"破埓戦士烈傳"~時代と限界を超えて 浮世絵師・石川真澄さんに聞く

2019年1月8日
破埓戦士烈傳"~時代と限界を超えて 浮世絵師・石川真澄さんに聞く

2020年に向けて、パラアスリートの魅力をどうやって幅広く伝えるか?

選手に対し、今までとは違う価値を付与して輝かせる方法を検討した中で、私たちがひとつの案として出てきたのが“浮世絵”としての表現です。浮世絵は、平和が続いた江戸の時代、歌舞伎役者や美人画、お寺や神社をお参りする旅路など、町人などに幅広く愛されたものが描かれ、人気を博しました。

私たちは、海外の人にも愛されている浮世絵という手法で、パラアスリートの魅力にフォーカスしていきます。そして今回、この「破埓戦士烈傳」(ぱらせんしれつでん)というシリーズを描く浮世絵師の石川真澄さんに、パラスポーツの“戦士”を軸とする“思い”を伺いました。

―作品を作るうえで一番こだわるポイントは?

あくまで、“選手のイメージを具現化する”ということを基本テーマとして作っています。
例えば、競技用の車いすを残しつつ、今昔(こんじゃく)を混ぜていくという描き方もありますが、一枚の絵として観たときに完成されている、かつ、ストレートにカッコいいものを作りたい、という意識もあります。選手の方たちの“精神エネルギー”を描きたいと思っていますので、その競技を彷彿とさせるけれど、浮世絵としても愉しむことができるように気を配っています。


―パラスポーツ、パラアスリートの印象は?

僕はスポーツとは真逆の人間なんです。強いて言えばサッカーを見るくらいで。
この夏、「車いすラグビー世界選手権」優勝のニュースを見たときに感じたんですが、僕は絵を描いている、選手たちはスポーツをやっている、という違いはあるけれど、自分を磨いて上にあがろうとするエネルギーは共通するところが十分にあると思いました。

会場に設置されたポスター

左:池透暢、右:池崎大輔
2018年12月 車いすラグビー日本選手権会場



絵の中の「破埓戦士烈傳」という題字は、当て字です。
パラの埓という字は「限界」という意味があり、それを破る=自分の限界を超える、という意味を込めています。

モノを作ったり表現したりするにしても、体で何かをするにしても、大事なのは、やはり精神エネルギーなのではないかと思うんです。パラリンピックの選手の方を精神エネルギーだけで考えたら、オリンピック選手となんの引けも取らないはずですし、もしかしたら超えているかもしれないとさえ感じることがあります。

ハンディキャップや障害があろうとなかろうと、大事なのはそのエネルギーだというのが、僕と唯一、同じところだと思っています。
小さなことかもしれませんが、僕は浮世絵をほぼ独学で描いています、現代に教えてくれる人はいないので。肝心なのは、「好き」という気持ちで、自分のアイデンティティーや自分を表現していこうとするエネルギーが、とどのつまり最も重要なことだと考えています。
比べられることではありませんが、そういう、自分の中でどうにかしていこうとするエネルギーが共通しているような…うまく言えないのですが、そう感じています。


この浮世絵シリーズは、2018年12月現在「車いすラグビー」と「ボッチャ」が完成しており、今後、様々な競技と選手で描かれていく


―“自分との闘い”と考えると、障害者・健常者限らず、過去の自分と向き合って乗り越えて生きていると思うんです。例えば、健常者はオリンピックの場合だと「自分と肉体の比較がしやすい」のかもしれませんが、障害のある人の状況を想像しにくいかもしれない。
けれど、一個体として考えると、過去の自分との比較は“誰でも同じ”です。「破埓戦士烈傳」という題字には過去の自分を乗り越えていくというメッセージを感じました

本当におっしゃる通りで、関係ないというか、焦点はそこ(障害)じゃないんだろうな、と。僕は、あくまで真摯にどこまで向き合えるか、ですね。
例えば、オリンピックの選手でも同じことですが、何かを一生懸命にやっている人に対して、どれだけ一生懸命に近づけるか、そこにしか原動力はない。
浮世絵っぽく描くというだけにしたくないのはそういうことで、たとえ浮世絵の様式と掛け離れていても、その選手に合っているかどうか、それが一番重要なことで、そこに尽きるのではないかと思っています。

―物事の限界を打ち破る、それは誰にでもあることですね
そう思ってもらえると嬉しいです。(たまたま)きっかけがパラリンピックというだけであって、障害のある人限定で作っているわけではありません。でないと、やる意味がない。
そういった意識も超えた状態に持っていきたいです。

―(企画立案者)私は、石川さんの絵で酒が飲めますよ(笑)

それはすごく嬉しいです!
スポーツだと、タイムとか順位とか、数字で明確に答えが出るじゃないですか。けど、
僕のような仕事は、そこらへんが漠然としていて、わかりづらいんですよね。もちろん、絵が売れたりするとわかりますが、印象とか感想でしかない。
浮世絵は、市井の文化というか、今の時代、キーワードだけ聞くと敷居が高く感じるかもしれませんが、実は逆なんです。芸術という概念がない時代の、町民の文化。

現代でいうと漫画雑誌が世の中に出回っているような感覚で、江戸の庶民が集めて楽しんだりするものだったわけです。
これから、いろいろな選手と出会って、どんな世界観を創っていけるか不安はあります。
けれど「酒が飲める」まで言ってもらえたら楽しみですね。



石川真澄さんプロフィール

1978年東京生まれ。2000年に六代目歌川豊国に師事。まもなく六代目が他界したため、独学で浮世絵を学び、個展やグループ展を中心に活動。2007年に写楽を題材にした映画『宮城野』劇中に使用する浮世絵制作を担当。2015年ロックバンド『KISS』とのコラボレーション「KISS☓浮世絵/接吻四人衆」発表。同年映画『STAR WARS』浮世絵「星間大戦絵巻」発表と続き話題に。2016年には尾上松也自主公演『挑む』、大阪駅前の『GRAND FRONT OSAKA』3周年キービジュアル、ヘビーメタルバンド『IRON MAIDEN』とのコラボレーション浮世絵など活動も盛んに。国立西洋美術館で開催された『北斎とジャポニスム』では葛飾北斎とのコラボレーションも果たし、漫画『COBRA』ではメインキャラクターを浮世絵として描き下ろすなど、現在の活動は多岐に渡っており、新たな浮世絵表現の画家、絵師として各界から注目されている。近作は『DAVID BOWIE』浮世絵(ロンドンの大英博物館に所蔵)他多数。今昔ラボ主宰。

 



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