「普通って、なに?」を聞いてみた vol.3-松森果林 |written by ごとうゆうき

2019年9月27日
写真:親指、人差し指、小指を立てて「I Love You」という手話を表示する松森さん(左)と後藤リポーター(右)

親指、人差し指、小指を立てて「I Love You」という手話を表示する松森果林さん(左)と私(右)

「就活は、普通、黒スーツに黒髪、パンプスだよね」
「これくらいのダイエット、普通でしょ」
「静かにしなさい!普通、こんなところでは騒がないでしょ」


――世の中には「普通の○○」という言葉があふれている。けれど「普通」っていったい何なのだろう。
来年に迫った東京パラリンピックの目標の1つは「共生社会の実現」。それは1人1人が「そのまま」でいることを認める、多様性を重んじる社会のはず。

今の日本で、本当に多様性って認め合えるのだろうか…?

そこで私は、様々なジャンルの方との対談を通して、「普通」とはいったい何なのかを模索し、「普通」にとらわれない「共生社会」を作るヒントを探っていきます。

Vol.3:「普通って、自分の中にあるもの」-松森果林

これまで、私が「普通」について考えるきっかけになった2つの漫画の作者の方にお話を聞いてきました。
今回は、私と同じ聴覚障害(中途失聴)で、先輩である松森果林さんにお話を伺います。
松森さんは、当事者の立場からユニバーサルデザインについて発信し続けています。

写真:紫色のワンピースを着た松森果林さん

松森果林さん


――松森さんは、ユニバーサルデザインを仕事にされているそうですが…?

もともとユニバーサルデザインというのは、できる限り多くの人にとって利用しやすいように建物、物、サービス、社会を作っていく考え方をいいます。

(私の)きっかけは千葉県にあるテーマパークなんです。聞こえているときに行ったのと、聞こえなくなってから行ったのではまったく違う世界だったことに衝撃を受けて。そうしたら、たまたま大学のときに、聞こえなくても10倍楽しむための提案をさせていただいて、興味を持ち始めました。
今は、大きいものでいうと空港関係ですね。空港っていうのは世界一多様なお客さまが利用する場所ですよね。ハード面をユニバーサルデザインにしようという委員会があって、それに携わっています。

ユニバーサルデザインといわれると、段差をなくしたり、スロープを付けたりする「移動のバリアフリー」のことを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
でも、ユニバーサルデザインの本質は、松森さんがおっしゃるように「できる限り多くの人にとって」利用しやすいこと。実際の例を見てみましょう。

国籍や障害を問わずたくさんの人が集まる“空港のユニバーサルデザイン”、例えば…

写真

成田空港では、エレベーターの非常ボタンは「SOSボタン」。
従来の電話マークの付いたボタンだと、聴覚障害者が押しにくいという意見を踏まえました。
このボタン自体も、色覚障害者が見やすい色、視覚障害者が見やすい浮き出し文字になっている。


写真

さらに、音声以外の筆談やジェスチャーなどでのコミュニケーションができるように、テレビ電話を設置。


写真

そのエレベーターは、段差はもちろんのこと、非常時に手話でドア越しに伝達ができるよう、ガラスがはめられている。視覚障害の人がドアがあることがわかるように、フルガラスではない。

上記のようなハード面だけでなく…

写真

羽田空港で働く人たちに向けて、多言語対応の一つとして手話を教えている松森さん

写真

手話技能検定4級以上を取得したスタッフは、このバッジをつける。羽田空港全体で、現在100人ほどいるそう。


ユニバーサルデザインというと、スロープや段差をなくすことのイメージがありますが、このように、ハード面だけでなくソフト面でも、様々な障害のある人が行動しやすいようになっています。
これらのユニバーサルデザインは、健常者の人にとっても使いやすいですよね!


ここで、松森さんの今までの人生についてお聞きしました。

私はもともと聞こえる人でした。小学校4年生の時に右が聞こえなくなって、左も中学生から聴力が落ち始めて、高校2年生の終わりぐらいには両耳ともほとんど聞こえない状態で。原因は全く分からなくて、今は片方だけ補聴器を使っています。補聴器をしていても、音があるっていうことはわかるけれど、言葉の聞き分けは全くできない状態です。

――私は人工内耳ですが、松森さんは補聴器なんですね。

補聴器って、私にとっては聞こえる世界と聞こえない世界をつなぐスイッチみたいなものなんです。周りがうるさいなと思うときは補聴器をOFFにすれば静かな世界で本を読んだり、眠ったりできるでしょう?そうやって使い分けることができるのはすごく便利ですね。音がない状態は「二次元の世界」で、音があると「三次元の世界」になるようなイメージがあります。

――たしかに、私も集中したいときは外しています。二次元から三次元へ、というのもとても共感できます。
モノクロテレビからカラーテレビになるような…。

写真:手話で話す松森さん(右)と後藤リポーター(左)

やっぱりそうよね!と松森さん。
今回は、私が手話でお聞きして、果林さんには手話と口話で答えていただきました。



――聞こえる世界も聞こえない世界も経験した松森さんにとって、そもそも“普通”ってなんでしょうか?

それは結局“自分の中にあるもの”だと思うのよね。だから1人1人みんな違うものだと思うの。

聞こえなくなってきた小学生の時、聞こえないことを理由にいじめられた経験から「聞こえないことは普通と違う、悪いことなんだ」と思いこんでしまった。だから、その先自分を守るために「聞こえないことは絶対に隠していこう」と決めたんです。それからは聞こえるふり、周りと同じように“普通”にする努力を始めました。周りが笑っていれば、理由が分からなくても自分も笑ったりとか、言っていることが分からなくても「うんうん、そうだね」と合わせたりとか。

そうやって自分のことを偽るような生活の中では、自分らしさってどこにもないんですよね。自分が本当に何をしたいのか、自分は何なのか、それすらもわからなくなってくるんです。それでも周りに合わせようと一生懸命だった時期もありました。

――松森さんも“普通”にとらわれていた時期があったんですね。

当時はそうでしたね。日本でいうと同調圧力という言葉がありますよね。暗黙の了解みたいな感じで、周りと同じようにしなくちゃ、それが一番いいみたいなことが。

今では、世界は多様性に満ちていると知られているから、誰かと合わせる必要はないし、同じくする必要もないとわかっています。でも、昔の私みたいに隠してしまう人もまだまだいると思うんですよね。「そんなことする必要はないよ」と伝えていけたらいいなと今は思っています。

写真

笑顔で楽しいの!と話す松森さん


――松森さんが、ユニバーサルデザインを進めていくうえで、一番大切にしていることは何ですか?

どうすれば一緒に楽しめるかなということですよね。一緒にいろんな立場の人が集まって、車いすの人も見えない人も聞こえない人も、あとは精神障害がある人や発達障害がある人、それから専門家とか空港関係者とか…いろんな人が一緒に集まって“対等な関係”で議論をして、対話を重ねていく。結果だけではなくて、そのプロセスを大事に考えています。

――プロセスが大事。なぜそう思うのでしょうか?

特に日本は成果主義で、結果やスピードや効率を求める部分が強くありますよね。でも空港のユニバーサルデザイン委員会は、1か月に1度、30人から40人の関係者が集まって、朝の10時から夕方の5時までずーっと話し合いを続けるんですよ。トイレとか床の素材とか、音の反響とか聞きやすさとか、コミュニケーションはとか案内カウンターはどうあるべきかとか、すごく細かいことをテーマにしながら丁寧に1つ1つ話し合っています。

そこには、当事者、いろんな障害の人が参加しています。そうした話し合いの積み重ねによって私たちも一緒に成長することができている場所だと思うんです。お互いの意見を聞きながら、言い方や伝え方の勉強にもなりますし。どうすればより近づくことができるのか、一緒に考えていける場所になっているので、お互いにとってもすごく得るものが大きいんです。

――すごくそう思います。
私は先天性の難聴なので、自分の世界の言葉しか持っていないんですよね。私の困っていることを、私の世界の言葉でしか伝えることができないんです。それが、聞こえる人たちの世界の言葉と、私の世界の言葉が対等の言葉になったときに、すごく伝わる感覚を得るんですよね。

そうよね、そういう経験ってすごく必要だと思うの。この「普通」という言葉を、「世界」という言葉に置き変えても同じだと思いますが、自分が持っている世界、言葉、相手が持っているものを一緒に越えて、出して、並べて見てみる、比較してみる、楽しんでみる。
“プロセス”はそういうことができる数少ない場所だと思うんですよね。いろんな人の価値観や、説明の仕方や、言葉も違う。結果だけ見てもわからないと思うんです。

――つまり、「プロセスの中で“共通の言葉”を見つけていく」ということですね。
結果だけをコピーをしてもうまくいかない。

うまくいかないと思う。そのプロセスの中で自分の言葉は増えていくし、自分が体験したことも本当の言葉になると私は思う。そうやって自分の言葉を持ってみれば、「普通」にとらわれることなく、自分の基準や、自分の「普通」、つまり世界を持って、自分が本当にやりたいことはなんだろう?と考えながら生きていくことができると思うし、自分の言葉を持つことは自分を大事にすることでもあると思うんですよね。

写真:両手で球体を表して、

「世界」という手話をしている松森さん

――ユニバーサルデザインを進めていく中で、松森さんが感じる「日本ならでは」の難しさは、何ですか?

世界の中でも日本のバリアフリーやユニバーサルデザインはトップレベルだと思います。ハード面ではすごく素晴らしいものがある。でも日本ならではの難しい面というのは、心やコミュニケーションの部分かなと感じています。どんなに建物やハード面が素晴らしいものであっても、そこで対応するスタッフの理解がない、コミュニケーションが取れない、そういう部分が、一番ハードルが高いのかな。

――なぜハードルが高いのでしょう?

子どものときから「世間の言う“普通”の枠に縛られている」とか、「障害のある人たちと会う経験が少ない」とか。障害のある人とない人とわけて教育を受けている部分もありますし。自分と違う人と関わることを怖がってしまう、遠慮してしまう、避けてしまう。そういう傾向があるのかなと感じることもあります。全部の人がそうとはいわないけれども。

――だからこそ、対話が必要で、対話はユニバーサルデザインにも結びつくんですね!
 対話についてのエピソードはありますか?

空港での音の反響についてですね。空港では、音の情報が頼りとする、視覚障害者のために音の反響まで考えて作られています。空港みたいな広い場所だと音が反響して、音が混ざって聞き取りにくくなる。その状況を改善するために、床や壁の素材、スピーカーと壁の距離などを全部計算して、聞こえやすい環境を作っていくんですよ。

もともと視覚障害者のために研究がはじまったことが、結果として難聴者とか、お年寄りにとっても“聞こえやすい環境”につながっていくんです。「全部つながってるんだ」と、みんながわかって目からうろこが落ちるような発見がある。それがプロセスの中で起こるんです。

写真:右手指二本を、上に広げた左手に落として表す「決める」

決めるという手話をしている松森さん(左)と、話を聞く私

――ユニバーサルデザインについて話す松森さんは、とてもきらきら輝いています!
聞こえないことが、「強み」になっているようですね。

最近私が思ったのは、聞こえないというのは昔の私にとっては『音を失う、情報が入らない、コミュニケーションができなくなること』と思っていたんですけど、今は『音に頼らない、縛られない、コミュニケーションが豊かであるということ』だと思うんです。
だから耳に踊らされることなく、世界を見に行くことができると思うし、私は自分の体の中には、まだまだ使ってない部分がいっぱいあると感じます。それを発見すると自分の「普通の世界」がどんどん広がりますし、すごく楽しいと今は思っています。

――松森さんのお話を聞いて、みんなの持っている普通は違う、それを理解したうえで、みんなで見せ合って行くことがすごく大事だと感じました。

“理解しあう”って結構難しいと思うんです。理解しあうというよりは“お互いを面白がる”ということだと思うんですよね、きっと。そうすると普通ってもっともっと広げていくことができると思うの。
理解しなきゃ!という関係ではなくて、自分が持っているおもちゃをお互い並べて楽しむとか、引き出しを出しあうとか、そんな感じで面白がる関係を作っていく、築いていく。そういう社会になるといいなと思います。

――最後に伝えたいことはありますか?

「映し替えし」という言葉があります。私は昔、未来の子供たちに自分と同じような悲しい思いをさせたくないと思って、社会を変えたいという気持ちがすごく強かったんです。でも結局相手を変えることはできないんですよね。だからそのためにまず自分が変わる。
例えば、自分が言われて嬉しかったことを周りの人にも伝えていったり、同じようにしたりする。そうやって優しさをつなげていくことによって、社会って少しずつ変わっていくかな、と思っていて、それが「映し替えし」という言葉。私がすごく好きで大切にしている言葉です。



今回の取材では、「対話」の重要性を感じました。
松森さんがこんなに「伝わる言葉」をたくさん持っているのは、きっととてもたくさんの経験はもちろんのこと、自身や周囲との対話を重ね続けてきたからなのでしょうね。

自分の世界と相手の世界を見せ合って、どうすれば一緒に楽しむことができるかを考える。
そのプロセスの中で、障害のある人もない人も共通の「言葉」をもっていく。
そこに共生社会へのヒントがあるように思いました。

\今回お話を聞いた人/
写真

松森果林(まつもり・かりん)|ユニバーサルデザインコンサルタント
小学4年で右耳を失聴、中学から高校にかけて左耳の聴力も失う。筑波技術短期大学デザイン学科卒業。在学中にTDLのバリアフリー研究をしたことがきっかけで「ユニバーサルデザイン」が人生のテーマとなる。オリエンタルランドなどを経て独立。元NHK・Eテレ「ワンポイント手話」講師、「ろうを生きる難聴を生きる」司会。元内閣府 障害者政策委員会委員。
著書に「音のない世界と音のある世界をつなぐ~ユニバーサルデザインで世界をかえたい!」、「誰でも手話リンガル」など。ブログ「松森果林UD劇場~聞こえない世界に移住して」でも発信をしている。

関連記事
「普通って、なに?」を聞いてみた vol.1-漫画家・はるな檸檬 (2019年6月19日)
「普通って、なに?」を聞いてみた vol.2-漫画家・えいくら葛真 (2019年7月26日)

キーワード

後藤佑季 バリアフリー 普通って、なに?
後藤佑季

後藤佑季(ごとう・ゆうき)

1996年7月30日生まれ 岐阜県出身 聴覚障害(人工内耳使用) 【趣味・特技】料理、カメラ、書道準五段、手話技能検定準2級 【スポーツ歴】陸上(100m走など短距離)、水泳、バドミントン 【抱負】私の聴覚障害(難聴)のような『目に見えない障害』の存在を伝え、様々な障害のある人とない人との橋渡し役になれたらと思っています。自分の身体ではないものを最大限に生かし、自らの可能性を広げる、超人たちの「常識を超える瞬間」を多くの方にお伝えしていきたいです!

おすすめの記事