信じるのは、選手の勇気と可能性 ― 東京2020パラ水泳 日本代表監督・上垣匠

競泳 2020年3月6日
写真:上垣匠監督(左)と三上大進リポーター

新型コロナウイルス感染症による影響を考慮し、中止が発表されたパラ競泳の「日本代表選手選考戦」。
現在、ジャパンパラ水泳競技大会(5/22~24)を代表選考の場とすることで検討が進んでいるといいます。

実はこの発表以前に、代表選考の基準や見どころを日本身体障がい者水泳連盟の強化統括であり、東京2020パラ水泳日本代表監督の上垣匠さんに伺っていました。

今回はそのインタビューに、現状を受けた上垣監督の最新コメントを添えお届けします。

目次
■監督の“お仕事”と“レガシー”
■厳しい?「派遣基準記録」の真相
■見どころと、中止を受けて思うこと

監督の“お仕事”と“レガシー”

――監督ってどんなお仕事をされるのですか?
チームの計画を作成や、資金的なものも含め全体の“マネジメント”が中心ですね。
この数か月は代表選考会のことに取り組みつつ、2020年の強化スケジュールを担当しています。

この時期になると、我々がやれることって非常に限られていて。
後はここまでやってきたことをどう「花開かせるか」ということなんですよね。

そして2020年を成功させることはもちろん、その後どういうレガシーを残せるかというのが課題になってきます。


――監督が描く“レガシー”とは…?!

若手や次世代の選手を育て強化するという事業の体制が、連盟でも整い始めました。
ただ、2020年が終わると連盟への助成金やスタッフの数も少なくなりますし、いわゆる“パラバブル”も落ち着きますよね。
そういった「限り」の多い中で、連盟が合宿などで強化選手を集めて強化していくというやり方では、どうしても限界があります。

次のパラリンピック、そしてその先につなげる強化プランとしては「各所属先が責任をもって選手を育成する」という構造を作ることがベストだと考えています。

各選手が所属先での強化に重点を置けるようサポートをしながら、所属先と連携していくという大枠を私が担当しているんです。


――選手の今後にも大きく影響する使命ですね。

まさにそうです。パラ選手たちも、オリンピック選手と同じような目線、レベル感をもって所属でのトレーニングに対しての誇りも持っています。
そこで付けた実力は自信にもなっていますので、そういう方向性にもっていくことが必要だと思っています。

そして2020年のムードに乗って、パラ選手のトレーニングをきちんと組んでくれる大学なども徐々に増えてきています。

これも1つのレガシーの形なのでは、と思いますね。

写真:話をする上垣監督


厳しい?「派遣基準記録」の真相

――パラリンピック代表選考について教えてください

代表に選ばれるタイミングは2度あります。

まずは代表選手選考戦で、「派遣基準記録」を突破することです。
ただし、突破しなくても選ばれる可能性があります。それが第二次選考。
選考戦の記録を基準に慎重に選考していきます。


(1)日本代表選手選考戦*で派遣基準記録を突破
⇒日本代表選手としてJPC(=日本パラリンピック委員会)に推薦。
*3月の中止を受け、5月のジャパンパラで選考を検討中。

(2)第2次選考委員会において選出

⇒出場資格を満たす選手から、選考戦の記録を基準に選考。


――選考が2回に分かれる理由はなぜでしょう?

代表に選ばれるためには、まずは出場資格を満たす必要があります。
ここで重要なのが、いわゆる「クラス分け」 です。

クラス分けとは…
公平な勝負のため、障害の種類・程度によって
選手たちのクラスを分ける仕組みのこと。


実は、これからクラス分けを控えている選手がいます。
すると以下のような混乱を招く可能性があるんです。


代表選考戦での記録が派遣基準を突破!
⇒その後クラス分けを受けてクラスが変更に。
⇒新しいクラスでは派遣基準に満たなかった…


そう考えると、クラス分けが落ち着いた後に二次選考を設ける必要があるという判断になったのです。

写真:上垣監督(右)にインタビューをする三上リポーター(左)


――派遣基準記録はどう決めているのですか?

まずJPCの定める派遣基準というものがあります。
この基準は「
①メダル獲得, ②入賞の可能性のある選手を選考する」ことを指します。

我々の選考基準もその前提と揃っている必要があります。
そこで①・②の2つの柱で派遣基準記録を作ることになったのです。

具体的には東京MQSランキング(=東京パラの出場資格の基準となる世界ランキング)の「3位に対する到達度98%」という記録です。


――世界トップ3の記録の“98%相当”!
想像できませんが、厳しい印象が…

厳しいという意見は当然出ると思っていました。
ただやはり最初の基準としては、メダルの重要性は外せないので…。

98%というところもかなり議論を重ねました。
97、99だったらどうなのかとか。

97%だとランキングで12位、13位という入賞外の選手も選考対象に入ってしまって。
逆に99%だとほぼメダル確実の選手しか選ばれず、基準としては厳し過ぎる。

最終的に98%にしたのは、この数字だとすべてのクラス、種目において確実に「入賞ライン」を満たすからなのです。


――二次選考もこの記録が基準ですよね?

まさに、その通りです。
二次選考といっても再び記録を取るのではなく、あくまで選考戦の記録が基準となります。
これが反映された時点のMQSランキング上位から選手を選考していきます。
どちらにせよ、選考戦の結果次第ということですね。

見どころと、中止を受けて思うこと

――ずばり、選考会の見どころは!?
見どころね。大事なことですね(笑)
今の代表(去年代表)ですけど、年齢層が高いんです。
で、障害の重度層も非常に多いので、それだけにやはり「熟練のなせる技」は見ものですよ。
同じ視覚障害の選手でも泳き方も全然違います。
様々な細かいスキルを使って泳いでくると思いますので、大きな見どころかなと。

パラ競泳は特にいろんな障害のある選手がいます。
彼らが残された機能を使ってどこまでパフォーマンスを発揮できるか。
その「可能性の部分」というのが非常に見どころだと思います。
僕もその可能性を、強く信じています。

是非熱く応援してください!


・・・

3月の代表選手選考戦の中止を受け、上垣さんからコメントを頂きました。

選考戦に向けて、競技人生の全てをかけて積み重ねて来た選手達の心境を考えると、苦渋の決断であったと捉えています。
しかし、スポーツの大前提である健康を脅かす世界的な混乱の中において、急速な感染拡大を防止する重要な時期に国の対策に協力することは、スポーツの根幹を守る意味でも私達の使命であると考えています。

5月のジャパンパラで代表選考が予定されています。
選手達はパラリンピックに選考されることと、大会の成功に向け強い意思と勇気を持って挑んでくれると信じています。

代表監督として、選手達が万全の体制で大会を迎えられるよう、支援する為の方策を考え実行して行きたいと考えています。

感染により失われた多くの尊い命にご冥福をお祈りしますと共に、感染された方々が1日も早く回復し、安心してスポーツに親しめる日が戻ってくる事を願っています。

東京2020パラ水泳 日本代表監督 上垣 匠



写真:上垣監督

上垣 匠(うえがき・たくみ)
1975年1月10日生まれの45歳。兵庫県出身。日本身体障がい者水泳連盟の強化統括、東京2020パラ水泳日本代表監督。競泳選手として、高校時代にインターハイで、大学時代に日本選手権でそれぞれ入賞経験があり、日本代表としてパンパシフィック選手権にも出場した。趣味はDIY、スキー、釣り。好きな食べ物は甘いもの。

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三上大進
三上大進

三上大進(みかみ・だいしん)

1990年10月20日生まれ 東京都出身 左上肢機能障害 【資格】日本化粧品検定1級、コスメコンシェルジュ、TOEIC900点 【趣味】ショッピング、映画鑑賞、スキンケア 【スポーツ歴】スキューバダイビング、テニス 【メッセージ】パラスポーツを観たことはありますか?個性豊かな選手たち、向き合う障害、想像を超える競技…。知るほどに心が震える瞬間を1人でも多くの方に体験して頂けるように、ときめく熱いリポートをお届けします!

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