東京パラリンピック開催延期を受けて、パラ陸上・国内外の選手の声 | 後藤佑季

陸上 2020年4月1日
写真:桜と国立競技場

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、東京パラリンピックは1年延期、来年、2021年の8月24日に開幕することが決まりました。

今年8月に心も体も最高のコンディションにもっていくために、あるいは3月から6月にかけて行われるはずだった代表内定がかかるレースで少しでもよい記録を出すために、努力を続けてきた選手のみなさんをずっと取材させていただいてきたので、この決定には何とも言えない複雑な思いがありますが、今は一刻も早く事態が収束することを祈るばかりです。

この延期を受け、ドイツと日本の選手から届いたコメントをご紹介します。


■レオン・シェファー(ドイツ・T63)

写真:幅跳びをするレオン・シェファー

日本の山本篤選手と同じクラスの注目のライバル、シェファー選手。東京大会では大腿義足初の7m台が期待されています。
2019年の世界選手権では、走り幅跳び金、100mで銀を獲得しました。

パラリンピックが延期となり、今年開催されないことを本当に残念に思っています。私だけでなく、他の多くのアスリートにとっても、パラリンピックはまさに“2020年”を象徴するスポーツの祭典になっていたはずです。とはいえ、大会を延期するという決定は、唯一の正しい解決策でもあります。実際、私たちがこの先どれだけの期間ウイルスと戦わねばならないのかは誰にもわかりませんし、現在の状況の下で最適な準備をすることは全くもって不可能なことだからです



■ヨハネス・フロアス(ドイツ・T62)

写真:両手を広げるヨハネス・フロアス

両下腿義足のフロアス選手。2019年の世界選手権では、100m400mともに金メダルを獲得しました。
400mでは45秒台という驚異の記録をもっています。
東京大会では、2012年ロンドン大会でオリンピックにも出場した、オスカー・ピストリウスの記録を抜くのではないかと期待されています。

年配の隣人のために買物をしていた時に延期のことを知りました。アスリートとしては身を切られる思いではありますが、大会が延期されるだけのことです。現段階では健康と安全が何よりも重要ですから、正しい決定だと思います



■マルクス・レーム(ドイツ・T64)

写真:幅跳びをするマルクス・レーム

パラ陸上といえばこの人。世界で最も知られているブレードジャンパー、レーム選手。
走り幅跳びでオリンピアンを超える8m48という記録をもっています。
東京大会への目標を聞くと「砂場を小さく見せる」跳躍をしたいと意気込んでいました。

正しい決断ですが、どこか乱暴で超現実的でもあるとも感じています

※2019年の世界選手権の跳躍はこちら


■ダフィット・ベーレ(ドイツ・T62)

写真:両脚義足で走るダフィット・ベーレ

ヨハネス・フロアス選手と同じ両下腿義足のベーレ選手。
リオ大会では、マルクス・レーム選手とヨハネス・フロアス選手らとともに、“義足リレー”で金メダルを獲得しました。

宙ぶらりんの状況が終わり、結論がでたことを嬉しく思っています。健康第一です。パラリンピックを最後に、アスリートとしてのキャリアを終えようと考えていましたので、それが2021年になったということです:東京の、クールで満席のスタジアムでキャリアを終えたいと願っています



■イルムガード・ベンスーザン(ドイツ・T44)

写真:走るイルムガード・ベンスーザン

もともと健常者で陸上をやっていたベンスーザン選手。ハードルに足を引っかけたことで、右ひざの神経が引き裂かれ、パラ陸上の世界に入りました。
2019年の世界選手権では100m、200mともに金メダルを獲得し、波に乗っている選手です。

パラリンピックは残念ながら1年延期されることになりましたが、全世界がこの状況では絶対にそうすべきです。金メダルより人命のほうが大切です

取材協力:バイエルホールディング株式会社
・・・

伊藤智也(日本・T52)

写真:伊藤智也選手

パラ陸上のレジェンド。北京大会で金メダル2個、ロンドン大会で銀メダル3個を獲得しました。
一度引退するも、東京を目指して復帰し、2019年の世界選手権で100m銅400m銀1500m銅を獲得し代表内定。
東京大会への切符を手にしました。

1年5か月あるという事ですから、正確な計画を立て進めていきたいと思っています。きっちり1年の延期という事ですから、身体の作り方が比較的スムーズなのかなと思います。とりあえず一旦ゼロに戻すのが少々不安ですが、積み重ねていきます

伊藤選手は、多発性硬化症という基礎疾患があり、新型コロナウィルスに感染した場合、重症化のリスクが高いため、病院に行く以外は自宅から出ずに、室内でトレーニングを続けています。

写真:練習中の伊藤選手

画像提供:伊藤智也選手


石田駆(日本・T46)

写真:石田駆選手

2019年現れた期待の新人。
高校総体にも出場したことがある実力の持ち主ですが、骨肉腫を発症し、左肩が人工関節になりました。
2019年の世界選手権
では、東京大会の内定が4位以内という条件の中、あと一歩という5位入賞を果たしました。
現在は、午前中はトレーニング、それ以外は外出を自粛しているとのこと。
石田選手は卒業した高校の陸上部の監督から今も指導を受けているのですが、高校は休校・部活停止のため、いまは行けていないのだそうです。

ことし開催されることを非常に楽しみにしていたことではありますが、やはり今は選手を含め、全世界の人々の安全を第一に考えるべき時期だと思うので、1年の延期が望ましいことだと思いました。
また、自身のモチベーションとしては、この1年という期間を使って、トレーニングの強化を高めて世界記録を狙いに行くチャンスと思っています。復帰して約1年ではありますが、やはりまだ高校時代の自己ベストにも辿り着けていませんし、まだまだこれからがタイムを伸ばす勝負だと思っています。モチベーションはそのままで、今後もトレーニングを続けて行きます


このほかにも、
「パラリンピックについて知ってもらう時間が増えたと思って頑張る」 「あと1年切り替えてやるしかない」というような前向きにとらえようとされている選手や関係者の方の声を多数お寄せいただきました。

一方で、知的障害の選手のコーチにお聞きすると、「そもそもあと1年延期になったこと」を理解してもらえるのか、理解したとして、あと1年以上頑張れるかどうかなど、知的障害の選手に特有の不安を感じていらっしゃいました。

「新型コロナウイルスの感染によって重症化するリスクが高くなる」、ということだけではなく、いろんな難しさがあり、これもまた多様なのだということを、改めて感じました。
これからも取材していきたいと思います。



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後藤佑季(ごとう・ゆうき)

1996年7月30日生まれ 岐阜県出身 聴覚障害(人工内耳使用) 【趣味・特技】料理、カメラ、書道準五段、手話技能検定準2級 【スポーツ歴】陸上(100m走など短距離)、水泳、バドミントン 【抱負】私の聴覚障害(難聴)のような『目に見えない障害』の存在を伝え、様々な障害のある人とない人との橋渡し役になれたらと思っています。自分の身体ではないものを最大限に生かし、自らの可能性を広げる、超人たちの「常識を超える瞬間」を多くの方にお伝えしていきたいです!

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