彼女たちの今 ~東京パラリンピック開催延期を受けて、パラ陸上・国内外の選手の声② | 後藤佑季

陸上 2020年4月13日
2019 世界パラ陸上競技選手権 女子 走幅跳 T64 決勝 笑顔の中西麻耶(中央)、ファンハンスウィンクル(左・オランダ)、ウォルシュ(右・オーストラリア)

緊急事態宣言が出るなど、新型コロナウイルスの感染拡大は留まることを知りません。
東京パラリンピックは1年延期、来年、2021年の8月24日に開幕すると発表されています。

この延期を受け、オランダからもパラ陸上のアスリートからのコメントが届きましたのでご紹介します。
去年11月のパラ陸上世界選手権の女子走り幅跳び(T64)
で、日本の中西麻耶選手と戦ったトップアスリートたちです。
このコメントは、イギリス在住のコーディネーターである鈴木祐子さんの協力で取材しました。


■マーレーネ・ファンハンスウィンクル(オランダ・T64)

写真:跳躍を行うハンスウィンクル

生まれた時から左腕と左脚が欠損しているハンスウィンクル選手。リオパラリンピックでは走り幅跳びで銅メダルを獲得したオランダを代表するパラアスリートの一人です。
2019年の世界選手権では、100mで銀メダル、そして走り幅跳びでは中西選手に最終跳躍で逆転されて惜しくも銀メダル!でした。ちょっと悔しそうな表情が印象に残っています。
実は、その頃、燃え尽き症候群になってしまっていたといいます。5か月後の今、新型コロナウイルスの影響の中で思うこととは?

Q:パラリンピック延期についてどう思いますか?

私は正しい決定だと思っています。世界中の人々の安全はどんなスポーツよりも重要だと感じるからです。延期にはよい側面もあります。普段私たちはトレーニングとスポーツにかなり集中していますが、今はそのエネルギーを他のものに当てることができます。家族や友達、恋人との時間を持つことができたり、自分の心身を気にかけたり、勉強したり、普段スポーツのために後回しにしているものに時間をかけることができます。もちろん安全のための対策は忘れられませんが・・・

去年、私は燃え尽き症候群に苦しみました。1年後のパラリンピックのために私は回復を急いでいました。でも今は回復に専念するエネルギーのバランスを取り戻す時間を得ました。そして基礎に立ち返ることができます。この延期は、私が自分のベストになるためのセカンドチャンスのように感じます。私はこの8月、9月にベストな自分を世界に見せられる自信がありませんでしたから。

でも2021年になら、ベストな自分を世界に見せられる自信があります。それに、観客なしのパラリンピックでは残念です。去年東京に行ったとき、みんなが大会に向けて興奮していました。それを逃したくはありません。ですからその興奮をもう一年待つのは構いません。もっと大きなもっと素晴らしい大会を来年作り上げましょう!そしてそれは可能だと確信しています。来年大会はもっと素晴らしいものになるはずです。こういった生活を強いられている状況ではありますが、実はそれがとてもよくて、以前よりずっと不安が解消した感じがしているのです。

写真

ことし2月、仲間とトレーニング中のハンスウィンクル選手(中央)。左手にはトレーニング用の義手。(写真・取材:鈴木祐子)


Q:どんな風に「隔離生活」を過ごしていますか?

ほとんどの日を「自宅隔離」しながら過ごしています。彼氏が家でテレワークしているので、8時から17時までテレビは禁止です。一週間に5日は運動しようとしています。幸運なことに屋内で自転車をこぐことのできる器具を持っています。その他にもヨガマットで様々なエクササイズをすることができ、ウォーターボトルもウエイトとして使うことができます。

もちろん、たくさんの時間があるので、運動以外にも本を読んでいます。今読んでるのは『減速した時にだけ見えるもの』。今の自分にとても通じるところがあるように感じます。

私はソファにいるのがとても好きです。そこからたくさんのことができます。本を読んだり、ドラマをみたり、友達や家族にビデオコールしたり、勉強したり音楽を聞いたり。それは自分の時間で、それがとても楽しいです。常に彼氏と自分と二人とも家にいるので、夜は楽しいことをして過ごそうとしています。パズルをしたりボードゲームをしたりします。お互いにイライラしないようにしているわけです。隔離生活というのはとてもいいカップルとしてのテストです。今のところうまくいっていますよ。

この状況を受け入れるためのメッセージとしては、この時間をスローダウンするために使い、瞬間を楽しんで、ということです。そしてもちろんウイルスをコントロールするためにできることをしましょう!




■フラー・ヨング(オランダ・T62)

写真:両腕を上げ、ジャンプをして喜ぶヨング選手

両足義足のヨング選手。まだ大きな大会でタイトルを獲得したことはないのですが、今、急成長を遂げています。
去年は走り幅跳びを始めて1年目にもかかわらず、1か月で50cmも自己ベストを更新し、世界記録を連発!
ヨング選手は感染症のため両足を切断、2015年本格的にパラ陸上を始め、リオパラリンピックを始め様々な世界の舞台を経験してきましたが、常に足の切断箇所の不調に悩まされ、引退も考えたこともあったそう。去年は、そんなつらい期間を経ての急成長。日本の中西選手も「東京パラでは要注意!」と話す存在です。
普段は大学に通っているヨング選手。試験が終わってすぐにコメントを送ってくれました。

Q:パラリンピック延期についてどう思いますか?

大会の延期は正しい決定です。世界の大部分がこの病気の流行を食い止めようとしていて、7月、8月までにコントロールできるようになったとしても、大会が通常の大会ように祝福ムードであるかどうかは疑問です。東京大会は大きな興奮、幸福、そして素晴らしいパフォーマンスに値するものです。病気が流行したすぐ後に開かれるのは現実的だとは思えません。

正直なことを言うと延期の決定に少しの間、傷つきました。ここまでのところ、この夏の大会に出る準備は万全だったからです。1年の遅延はさらに向上するチャンスもたくさん与えてくれますが、その1年の間に怪我をする危険も常にあるのです。この冬は断端(だんたん・足の切断部分)に大きな問題や怪我を抱えることなく過ごすことのできた初めての冬でした。

この冬、けがに妨げられずトレーニングできることが自分に与えてくれた成果の大きさを感じています。私は幅跳びにおいてはまだルーキーです。確かに才能はあるかもしれないのですが、まだ跳び始めて8か月ですから、まだ学ぶべきたくさんのことが残されています。

延期は、延期、ということでしかありません。2021年の最終的な日取りが決まったので、新しいスケジュールを作ることができます。引退するような計画はありませんよ。まだ始まったばかりという気がするのです!ついに自分の本当の才能を見つけることができ、自分にとってベストなトレーニングの方法を編み出してきました。強度、スピードそして幅跳びのスキルを向上させてきました。ことしのトレーニングや仕上がりの目標は同じままです。一つの目標だけが延期されました。それは東京で輝く!ということです。

写真

2019年11月、ドバイで開かれた世界選手権でのヨング選手。身長168センチの私と比べて、どれだけスラっと背が高いか分かりますでしょうか?競技用両足義足で静止していることは、立ち止まることができずとても大変なので、肩を貸しています!

Q:どんな風に「隔離生活」を過ごしていますか?

オランダでは完全なロックダウンというわけではありません。「インテリジェントロックダウン」と呼ばれていて、政府が必要な対策をとりながら個人の責任ある行動を求めるものです。学校やスポーツ施設など公共の場はすべて閉められています。集団行動することはできず、必要があれば1.5mの間隔をとらなければいけません。従わなければ罰則が課されます。

私はほとんど家にいて、食料品を買いに行ったりトレーニングしたりするときだけ外に出ます。大学は試験をオンラインで行い、ここ数週間はかなり勉強する必要がありました。今は家を掃除するなど、普段忙しすぎて後回しにしている家事をやっています。散歩に行くかトレーニングに行くのが1日のハイライトです。

トレーニングでは精神的につらいと思うこともあります。
今私たちが経験している危機を考えると、体を鍛えるというのは実際どれくらい重要なことなのでしょう?一方で、陸上は自分の愛するものであり、自分の1日のハイライトでもあり、自分の仕事でもあります。それが自分のやっているすべてです。それは他の人に対しても何かを与えられるものでもあるはずです。
もしやらなければと思うことがあるなら、計画を立てて真剣に考えてみてほしいです。できる限り寛容でいようとしてくれている社会に対する感謝の気持ちも忘れないで。

人間というのはとても賢く粘り強いものです。ですから頑張り続ければ、この危機を一緒に戦い抜くことができるはずです。

写真

ことし2月のヨング選手(右手前)とハンスウィンクル選手(右手前から3番目)。二人は共同でチームを立ち上げ活動しています。今はこうした施設も使えないため、それぞれ自宅でビデオ通話をしながら筋トレする、オンライントレーニングをしているそう!

・・・ハンスウィンクル選手とヨング選手、チームメートでありながら、「延期」への受け止めは対照的でした。でも、東京パラリンピックで輝きたい!という思いは持ちづづけているのだと、あらためて感じました。

ヨング選手、そして日本の中西麻耶選手(T64・19年世界選手権日本初の金メダル)など女性パラアスリート達が、国境を越えて作成した動画をSNS上で公開しています。

テーマは「普段はライバル同士の我々ですが、このような困難な状況を一致団結して一緒に乗り越えて行こう」だそう。
中西選手から動画を送っていただいたので、こちらでご紹介したいと思います。

※都合により、音声がない状態で公開しています
手に持っているのは、スパイクのピンを締める工具のようです。見ていると笑顔になりますね!

今の社会にできることは何か?と、考え、動き始めたアスリートたち。そのメッセージが持つ力をしっかりと受け取り、多くの方たちに伝えていきたいと思います。



【関連記事】東京パラリンピック開催延期を受けて、パラ陸上・国内外の選手の声(2020/4/1)


キーワード

後藤佑季
後藤佑季

後藤佑季(ごとう・ゆうき)

1996年7月30日生まれ 岐阜県出身 聴覚障害(人工内耳使用) 【趣味・特技】料理、カメラ、書道準五段、手話技能検定準2級 【スポーツ歴】陸上(100m走など短距離)、水泳、バドミントン 【抱負】私の聴覚障害(難聴)のような『目に見えない障害』の存在を伝え、様々な障害のある人とない人との橋渡し役になれたらと思っています。自分の身体ではないものを最大限に生かし、自らの可能性を広げる、超人たちの「常識を超える瞬間」を多くの方にお伝えしていきたいです!

おすすめの記事