義足のランウェイ 「見せるという選択肢を」(前編) | 後藤佑季

2020年9月11日
写真:白と金の衣装を身にまとう義足のモデルたち

2020年8月25日の夜8時―。

本来なら、東京パラリンピックの開会式が、新しくなった国立競技場で盛大に開かれているころ。
本来なら、この日のために人生をかけてきたパラアスリートたちが、これからの試合に胸を躍らせ、あるいは迫りくるプレッシャーを感じながら、日の丸とともに入場行進しているころ。
本来なら、日本だけでなく、海外からたくさんの障害のあるアスリート、そして観客が訪れ、それを街中で私たちが目にしているころ。

都内の会場で、義足の女性たちによるファッションショーが開かれました。


■さまざまな義足による“表現”

写真:銃を義足にしたり、下駄に合わせた義足、義足に桜を巻き付けたりと、華やかな義足のモデルたち

日常用義足とは全く違う、きらびやかな義足たちも主役です。

参加したモデルの中には、東京パラリンピック代表が内定している前川楓(まえがわ・かえで)選手の姿が。

写真:前川選手。(左)白い華やかな衣装でウサイン・ボルト選手のガッツポーズ、(右)幅跳びのジャンプ

「改めて、きょう開催されることで、自分自身あと1年なんだという思いと、日本中・世界中の方に見てもらえることができてすごくうれしいです。私自身は、義足をとってもかっこいいと思っているので、もちろん見せないという選択肢もあると思うんですけど『見せてもいいかも』、と思ってもらえたら」



そして、東京パラリンピック内定を目指している大西瞳(おおにし・ひとみ)選手も。

写真:大西瞳選手:(左)陸上のスタート (右)ミニ丈のウエディングドレスのような華やかな衣装と花柄の義足


「パラリンピックが延期になってしまって、正直落ち込んでいたんです。でも、みんなとつながって何かできる、前に向かって行動することで自分も前向きになれるかなと思って。来年のパラリンピックに向けて、自分自身もここで気持ちを切り替えていきたいです」



■女性たちが、自分の身体を好きになれるように

写真

企画したのは、写真家の越智貴雄(おち・たかお)さん(写真左)と、義肢装具士の臼井二美男(うすい・ふみお)さん(写真右)です。

2000年のシドニー大会の時から、パラスポーツを追い続けてきた越智さんは、躍動感あふれる写真で、パラアスリートやパラスポーツの魅力を発信し続けてきました。

「臼井さんと初めて話をした時に、義足を隠さなければいけないものだと思っている女性たちが結構いるという話を聞いたんです。僕はそれまで、アスリートたちの姿しか見てこなかったから、ショックを受けました。こんなにカッコ良くて、素敵なものなのに、と。
義足のかっこよさが伝わるような、隠さなくてもいいんだと思えるようなことを何かしたいと思って、このプロジェクトを始めました」


臼井さんも、こう語ります。

「(義足の方を)ずっと見てきて、男性はメカニックだからということで、まだオープンにする人が多いんだけど、女性は消極的な人が多いんですよね。女性がオープンにするようになれば、自然に男性もよりオープンに、お子さんもオープンにし始めたりと、つながっていくかなと思ったんです。
障害がある人は、自分自身を表に出すということが少ないので、一般の人の自己表現するような舞台、自分の身体に自信を持つ舞台を作れたらと思って」

こうして、2人が7年前から企画してきた、義足のファッションショー。
ファッションショーだけでなく、写真集も販売し、その影響は徐々に大きくなっているそうです。

写真:カメラを構える越智さん(左)、モデルに義足の調整をする臼井さん(右)

越智さん|「ファッションショーを見た義足のお子さんが、大きくなったら私も出る!と言ってくれたことがあって、それを聞いたときはとてもうれしかったです。このショーは回を重ねるにつれて、『やりたい!』という人が増えてきました。初回なんて『義足を表に出したくない』と、6人集めることすら大変でしたが、今や12人ですよ!そのうちオーディション形式になったりして(笑)」

臼井さん|「世界でも、義足だけのファッションショーというのは、例がないんですよね。健常者の中にいたり、あるいは車いすなど他の障害のある人も含めてのショーはあるけれど、義足だけ、というのはないんです。しかも年々参加者は増えていて。今回は一番豪華でしたよ」

越智さん|「彼女たちは、あったもの(脚)がなくなるという経験をしている人が多いんです。それは、突然人生の階段が消えてしまって、周囲に何もない、真っ暗なブラックホールにいるようなものだと思うんです。その中から“自分のやりたいこと”という光を見つけて、元の位置に戻り再スタートを切る。その姿が、コロナ禍で“やりたくてもできない”状況にある、僕たちに力を与えてくれるんだと思うんです」

臼井さん|「見せることが全てじゃないけど、見せることで気持ちがガラッと変わることもある。だから、見せてもいいんだって思えるような、そんな義足を作らなきゃね!」


越智さんや臼井さんの思いを受けて、輝きを放つモデルと、その義足たち。
後編では、これまでの義足のファッションショーを見て、参加してみたいと思ったという、ある女性モデルの舞台裏をお伝えします!

【後編】義足のランウェイ  義足を“武器”に ―モデル・海音さんの再出発

【関連ページ】越智貴雄 感じるパラリンピックGallery

これまでパラリンピック10大会の取材を重ねてきた写真家の越智貴雄さん。これぞ、と“感じた瞬間”を伝えます。

キーワード

後藤佑季
後藤佑季

後藤佑季(ごとう・ゆうき)

1996年7月30日生まれ 岐阜県出身 聴覚障害(人工内耳使用) 【趣味・特技】料理、カメラ、書道準五段、手話技能検定準2級 【スポーツ歴】陸上(100m走など短距離)、水泳、バドミントン 【抱負】私の聴覚障害(難聴)のような『目に見えない障害』の存在を伝え、様々な障害のある人とない人との橋渡し役になれたらと思っています。自分の身体ではないものを最大限に生かし、自らの可能性を広げる、超人たちの「常識を超える瞬間」を多くの方にお伝えしていきたいです!

おすすめの記事