信じたい、スポーツの力 ——パラ競泳・鈴木孝幸

競泳 2020年9月15日
写真:笑顔の鈴木孝幸選手

2019年4月 イギリス・グラスゴーで行われた競泳大会より 鈴木孝幸選手


延期された東京パラリンピックの開催予定日まで、残り1年を切りました。

ちょうど去年のいまごろを思い出します。

競技の魅力や、選手たちの熱い抱負、胸の高鳴り…
様々な番組やイベントでまぶしい感情をお伝えしていたあの時の「1年」と、
いま目の前に広がる「1年」とでは、同じ言葉でも違う音のように聞こえます。

開催に向け様々な心境を抱いているのは、選手たちも同じです。

彼らはいま何を思い、何を目指しているのか。
今回の記事では、パラ競泳のベテラン・鈴木孝幸選手のインタビューをお送りします。8月22日のNHKラジオ「マイあさ」の内容を基に、放送ではお伝えしきれなかったとっておきのエピソードもご紹介します。
(インタビューは鈴木選手が練習拠点であるイギリスから、新型コロナウイルスの影響で日本に一時帰国をされている8月中旬にリモートで行いました)


鈴木孝幸
パラリンピックに4大会連続出場、運動機能障害のクラスで5つのメダルを獲得した“ミスターパラ競泳”。リオ大会ではまさかの無冠。イギリスで体幹を鍛えなおし泳ぎのフォームを改良。2018年の国際大会ではリオの金メダリストを破り、東京への確かな手ごたえを得た…
2019年にロンドンで開催されたパラ競泳世界選手権では、出場5種目すべてでメダルを獲得するなど活躍。来年の東京パラリンピックでも表彰台が期待される、日本のエース選手の1人。


・・・

Q大会延期が決まったときはどんな気持ちでしたか?

覚悟はできていたので、そこまで驚きはしなかったです。
残念な気持ちはもちろんありましたけれども、今のとこと中止ではなくて「延期」。
まだ出られる可能性も残っていますので、気持ちを切り換えてトレーニングしています。


Q自粛期間はどう過ごしていましたか?

家にいて自宅でできるトレーニングをほぼ毎日やっていました。ペットボトルに水を入れて、ダンベルの代わりにして持ち上げたりとか。
あとは日本代表の木村敬一選手と一緒にオンライン将棋を指したり、イギリスの大学院の修士論文を書いたり、意外と忙しかったです。


Q練習が再開してからはどんな練習をしていますか?

直近で大会があるという状況でもないので、焦らずトレーニングしていこうとイギリスのコーチと話をしています。最低限、落としてはいけない体力はキープするという感じですね。
トレーニング以外ずっとパソコンに向かっているので、サラリーマンのように首、肩、腰が凝り固まっています(笑)


Qイギリスの練習環境はどんな状況でしょうか?

イギリスは最近トップ選手用にプールが開くようになりました。ようやくトレーニングができるようになった状況なので、また向こうに戻って練習することができます。
今も国によって様々な状況のようですね。

写真

2019年9月 パラ競泳世界選手権 男子100m自由形(S4)の表彰式
ロマン・ズダノフ選手(ロシア・中央)と、チョ・ギソン選手(韓国・右)と共に



Q海外の選手たちは、来年の東京大会をどう捉えているのでしょうか?

東京に来るのをすごく楽しみにしていた選手が私の周りには多かったので、来年開催されることになれば喜んで来てくれるんじゃないかなと思います。
「おいしいご飯屋さん教えて!」など聞いてくれた選手もいました。

ですが世界的にはコロナウイルスの感染者は増え続けていますので、その状況次第で中止など、私も含めですが覚悟はしているんじゃないかなと思います。


Q来年の東京大会に向け、さまざまな声があがっています。鈴木選手の率直な気持ちを教えてください。

やることによって起こる経済効果もあると思う一方、まだコロナウイルスに対する対策が万全ではないので、
どういう対策をしていくのか考えないといけないですよね。

「中止すべき、延期すべき」という判断は非常に難しいと個人的には感じています。
選手としてはもちろん自国開催のパラリンピックに出てみたいですし、そこで活躍したいと当然思っています。


Q「新しい生活様式」を送るうえで、競技面で気を付けていることはありますか?

水泳は基本的に個人競技なので、トレーニングをするうえでの感染リスクは低いのかなと思います。
ですが同じコースに選手が入る時は、スタートする側をプールサイドの端と端で分けるなど工夫をするなど、他にも、パドルやシュノーケルなどの用具は使用後はしっかり消毒をしています。


Q日常の生活面ではどうでしょう?

基本的に車いすに乗ってるのですが、例えば外出から帰宅したとき、服だったら着替えれば良いですが、車いすには替えがありません。なので、車いすにウイルスが付着した場合、どう感染を防げるかを考えますね。
除菌シートで、座面やタイヤの外側にあるこぐ部分を除菌シートで拭いたりしています。

スポーツも含め、今まで普通にできていた日常のことができなくなってきているので、「当たり前にできてたこと」の大事さを痛感しますね。


Qコロナ禍を経験する中で、2021年に向け新たに抱いた抱負はありますか?

こういう状況になる前から金メダルを目指してやっていますので、来年もそれを目標にトレーニングしていきたいと思っています。
ですが正直に言いますと、あまり自分のパフォーマンスに意味合いを持たせたいというのが無いのです。それは観ていただく方が自由に感じ取ってもらえればいいかなというふうに思っています。

コロナによってすごく大変な思いをされている方に対して勇気づけたいとか、そういったちょっと押し付けがましい感じはしたくないなと思ってます。
もちろん、何かプラスの感情を抱いてくださる方がいらっしゃればそれはすごくすてきなことですし、選手としてもすごくうれしいですけど。

写真

2016年9月 リオパラリンピック 競泳 男子 50m 平泳ぎ(SB3)



Qパラリンピックが1年後どんな存在であって欲しいと願いますか?

いまはコロナウイルスの悲しいニュースが多くて、やっぱりネガティブな心境になりがちですよね。
ですが、スポーツは、本来見ているだけでも楽しいものだと思います。

サッカーや野球など、最初は無観客だったのが、徐々にソーシャルディスタンスを保ちながら観客を入れられるようになってきていますよね。水泳も「密」を防ぐことがうまくできれば大会もできるようになるかもしれません。
そうなると応援してくれる皆さんも、前向きに生活をしていく”モチベーション”が上がるのかなとも思います。

来年オリンピック・パラリンピックが開催されて、そのニュースが少しでもプラスの、ポジティブな影響を人々に与えられるならば、それはすごくうれしいなと思います。


・・・

何を隠そう、私もスポーツ・パラスポーツのファンの一人。

“リポーター”という職業を抜きにしても、
これまで幾度となく選手たちから、明日を生きる強いチカラや、前に進むモチベーションを与えられてきました。

正直、見えない1年後へ不安を感じる気持ちは少なからずあります。
(きっと多くの人がそうだと思います)

それでも前を向こうと励む選手たちの強さを知るたびに、1年前に夢見ていた「その日」をもう一度信じたくなります。

その時、その瞬間、
どうか1つでも多くのポジティブなパワーが生まれることを願って。

少し“離れた”距離からではありますが、
またこうして選手の取材を続けていきます。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!
みなさまどうぞStay safe, Stay positive 🙂

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三上大進
三上大進

三上大進(みかみ・だいしん)

1990年10月20日生まれ 東京都出身 左上肢機能障害 【資格】日本化粧品検定1級、コスメコンシェルジュ、TOEIC900点 【趣味】ショッピング、映画鑑賞、スキンケア 【スポーツ歴】スキューバダイビング、テニス 【メッセージ】パラスポーツを観たことはありますか?個性豊かな選手たち、向き合う障害、想像を超える競技…。知るほどに心が震える瞬間を1人でも多くの方に体験して頂けるように、ときめく熱いリポートをお届けします!

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