毎年12月に行われる、パラバドミントンの日本選手権。
ただ、今回はいつもと様子が違います。
前回の大会から1年ぶりに開催されたこの大会が、コロナ禍での“再開初戦”となったからです。
選手によっては「(2019年の日本選手権以来)1年以上ぶりの試合だ」という人も…
コロナへの感染対策のため、ダブルスはなく、シングルスだけとなった『第6回日本障がい者バドミントン選手権大会』。
大会の模様を注目選手と共にお伝えします!
■里見紗李奈(さとみ・さりな)|WH1(車いすで障害の重いクラス)優勝
試合後の「囲み取材」の場所にいらしたとき、「久しぶりですね!」と声をかけてくださった里見選手。笑顔がいつも印象的です。
2016年、高校3年生の時に交通事故に遭い、翌2017年からパラバドミントンを始めます。
2019年の世界選手権で、シングルスで初優勝を飾った世界王者です。
「試合ができなくて、今自分がどれぐらい強くなってるかがわからなかったので、確認できる大会にしたい」
と考えていたそうです。
前回の緊急事態宣言の時は、3か月練習ができなかったそうですが、その間に筋力トレーニングを重ねたそう。
今までは、あまり取り組んでこなかった筋力トレーニングを中心にしたことで、動きのバランスが良くなったと言います。
「私はちょっと嫌だったんですけど、肩回りが大きくなったねって言われました(笑)。でも、いまはアスリートですから!」

ベテラン福家育美(ふけ・いくみ)選手との決勝では、いつもの里見選手らしい“笑顔”が少ないように感じました。
そこについてお聞きすると…
「試合に集中しようって決めたら、頭の中でやりたいことを考えながらやるということを、この1年、練習の中で取り組んできたんです。ただ漠然とやるんじゃなくて、こうしたいな、ああしたいなって考えながら試合ができました。そういうのは1年前と違った部分なんじゃないかなと思います」
試合、そして戦略への集中がより高まった、ということなのでしょうか。
序盤は福家選手が鍛えてきたというクリアに翻弄される場面もあった里見選手。
試合を振り返って、
「クリアで競りあっても、もしかして負けるかもしれないなぁって思ったので、自分の中で『強制的に次絶対打つ』と決めました。もうどんだけ苦しくても打つと強制的に決めて、積極的にいけたと思います」
と話していました。

「パラリンピックまでの練習期間はもうたくさん頂いたので、その間に自分の一番いいプレイを本番で出来るように練習コツコツ、2021年もしっかりやっていきたいなと思います」
―パラリンピックに、世界王者として挑むプレッシャーはありますか?
「プレッシャーはないかな?世界王者というより、私より強い選手がいっぱいいるので。挑戦者のつもりというのは変わらず。そのままで頑張りたいと思います」
「もう、私はアスリートなんだ」という強い思いが、この3年間、取材するたびに増しているように感じます。
ことしの大舞台で、里見選手のとびっきりのスマイルをぜひ見せて欲しいですね!
■梶原大暉(かじわら・だいき)|WH2(車いすで障害の軽いクラス)優勝
現在、19歳の梶原選手。
2020年から大学生活が始まるはずでしたが、新型コロナによりオンライン授業になったことを受け、地元・福岡にいるそうです。
野球少年だった14歳の時に交通事故に遭い、2018年の秋に国際大会デビューした若手のホープ。
「この大会にモチベーションを合わせるように練習してきました。久しぶりの大会ですごく楽しみな気持ちと、不安な気持ちもあったんですけど、ここまで順調に自分の力を発揮できていると思います」
と話していました。
去年、2,3か月はシャトルが全く打てなかったという梶原選手。
「自宅にいる期間が長かったので、試合の動画を見て、自分自身を分析することができました。課題だと思ったチェアワークは、体育館を使えるようになってから重点的に練習をしたので、以前よりも成長できたかなと思います」

実はこの大会が始まる前に、普段ダブルスを組んでいるWH1クラスの村山浩(むらやま・ひろし)選手と、今回はダブルスがないため「二人で一緒にダブル金取ろうな」と話していたそう。
見事、優勝して金メダルを獲得した梶原選手。2021年の抱負は…
「東京大会に向けて、今回わかった課題も含めて全ての面においてレベルアップして行きたいなと思います。 大会があったとしたら、目標はシングルスとダブルス、どちらも金メダルです」
■鈴木亜弥子(すずき・あやこ)|SU5+(上肢障害などのクラス)優勝
2019年世界選手権では準優勝。世界でもトップの位置につける、日本のパラバドミントンをけん引してきた存在の鈴木選手。
試合は約1年ぶりだったそうです。
「コロナで出来なかったことは、大会がなく、いつも同じメンバーでの練習だったので、自分のレベルが上がっているかどうかがわからなかったことで不安でした。逆にコロナでできたことは、トレーニングの時間が沢山作れたこと。試合が続いた2019年はトレーニングがなかなかできなかったので。日々の積み重ねなので自分だとわからないんですけど、久しぶりに見た人からすると、前より形ができてるねって言われました」

2019年の取材では、フットワークが課題だと話していましたが、その点が改善されたように見られました。
「歩数が無駄にあったのでそれを改善してきました。求めてるところは、まだなんですけど、ちょっとずつ試合の中でもできるようになってきたかなって思います。例えば、2019年では前の球をとる時にノータッチで取れなかった時とか多かったんですけれど、今回はノータッチがほとんどなかったので、フットワークが改善できているのかな」
自分の成長を感じつつ、まだまだ飽くなき探求心を見せていました。
「今日の反省点は 追い込まれた時にやっぱり甘い球になってしまっていたので、もっとフットワークを速くしてシャトルの下に入り、つらい体勢でも奥に返せるようにしたいです」
ことしの抱負をお伺いすると…
「海外の選手と戦えてないので、2021年は試合することになるんですけれども、その時はやっぱり優勝したいです」
―やはり、初代女王になりたいですか?
「なりたいですね!」
■村山浩(むらやま・ひろし)|WH1(車いすで障害の重いクラス)優勝
里見選手をパラバドミントンの世界に招き、ダブルスのペアで梶原選手を“背中で”育ててきた村山選手。
決勝では、このクラスの第一人者、日本選手権4度優勝の長島理(ながしま・おさむ)選手との対戦になりました。
決勝前には、
「今までは、シングルスでは優勝したことがなくて、準優勝止まりでした。長島選手とは、最初はもう全然もう歯が立たないところから、スタートしたんですけども。ある程度対等に戦えるようになってきたので。まあ、彼をたたいて、優勝する。そこだけで今日、今回はきてます」
と自信をにじませていました。

結果は、長島選手をストレートで破る快勝。
「念願の、日本選手権の決勝で、長島選手を下すことができて本当にうれしいです」
と喜びをあらわにしました。
「コロナ期間中で色々と活動が制限されましたが、その間に自分を見つめ直してメンタルトレーニングができました。実際にコートに立つのは私なんですけども、私をサポートしてくれる家族や、会社の方、コーチの方。本当にそういう方々の協力がなければ私は今ここにはいないと思ってますので、もう本当に感謝の一言です」
―こうした結果の裏には、里見選手や梶原選手といった若い選手の存在も大きかったのでしょうか。
「私は競技を始めてまだ10年も経たないぐらいなんですけど、なかなか入れ替わりがない状態がしばらく続いていて。ここ数年、梶原選手にせよ、里見選手にせよ、若い選手が入ってきて、すごく刺激になっています。中年としては負けちゃいらんないなっていうのはすごくあります」
「大暉(梶原選手)のお父さんと僕、同い年なんですよ(笑)。大暉とのダブルスでは親子ペアとして、金メダルを取ってみなさんに恩返しができたらなと思っています」
■今井大湧(いまい・たいよう)|SU5+(上肢障害などのクラス)優勝
先天性の右腕欠損。小学4年からバドミントンを始め、現在は日本体育大学に所属。昔も今も、健常者と同じメニューをこなしています。
久しぶりの試合に、課題に取り組んできたものの、緊張からうまくいいプレーが出せなかったという今井選手。
「わくわく半分、緊張半分以上。緊張が結構大きかったです(笑)。2019年はパラのレースで海外遠征が多かったので、なかなか長く練習時間をとることができなかったんですけど、コロナの中、半年くらい課題克服(スマッシュに頼りきりにならないこと)に充てられました。試合では、ショットはスマッシュ頼りになっちゃったんですけど、動きは2019年より良くなっていると感じました」

決勝では、ベテランの浦哲雄(うら・てつお)選手との対戦。
2019年と同じ組み合わせでしたが、今回、緊張することなく自分のプレーが出せたと言います。
「コロナで大変な中、こういう大会があって、大会を運営してくださった関係者にはものすごく感謝してますし、大学を背負って出場できる大会が最後だったので、優勝できてすごくうれしい気持ちと、監督の大束先生や、先輩方や同級生、後輩に感謝の気持ちを伝えたいです」
ことしの抱負については
「まだまだいっぱい自分には課題があるので、そこをもっともっと突き詰めて、東京パラでもっともっとパワーアップできている姿を見せられるように練習に励んでいきたいです。パラには出られるかまだ決まってないんですけど、でも出られたらやっぱ優勝は狙ってます。優勝するつもりで出場しますし、優勝したいな、支えてもらったみんなに決勝で戦っている姿を見せたいな、って思います」
・・・
パラバドミントンは室内競技ということもあり、選手の皆さんへの取材がなかなかできていなかったので、躍動感あふれるプレーを拝見した時には、「ああ!これがパラバドミントンだ!」と、なんだか懐かしい気持ちになりました。そして、このコロナの中でも着実に「パワーアップ」していることを知り、期待が高まりました。
現場を取材していて印象的だったのは、選手の皆さんのプレーの後の充足感溢れる表情と、コロナ禍で何かしら「強化」してきたとおっしゃっていたことです。今回ここには書ききれなかった選手も含め、どの選手も、インタビューで「コロナ禍で〇〇を修正してきて、それをこの大会で試すことができた」と話していました。
やはり、パラアスリートたちには、コロナの中でも「今自分にできることは何かを考える」というスタンスがあり、それは(様々な制限に直面することが多い)障害があるからこそ続けられているのではないか、と改めて思いました。