東京2020パラリンピックから伝えられること 後藤佑季・千葉絵里菜・三上大進

2021年9月10日
写真

左から、後藤佑季・千葉絵里菜・三上大進。
三人の服の色が「赤、青、緑」のパラリンピックのシンボルマーク(スリーアギトス)のカラーになっていますね!
アギトスとは、ラテン語で「私は動く」という意味です。3つならぶスリーアギトスのパラリンピックマークは「動き」を象徴しており、世界各地から選手が集い競うというパラリンピック・ムーブメントの役割を強調しています。


3年以上にわたってパラスポーツの現場を取材してきたリポーターたち。
「私たちは、東京パラリンピックで実感したことを
今後にどう生かしていけばいいのか」、期間中印象に残った選手と、これまでの取材を振り返りながら考えた、3人それぞれの言葉です。

三上大進(主に競泳を担当)

印象に残った選手 :成田真由美

写真:背泳ぎをする成田選手

2021年8月31日 競泳女子50m背泳ぎ(S5)決勝

成田選手の戦う姿こそが、東京パラリンピックのレガシーと感じました。
大会期間中に51歳を迎え、今回が6回目のパラリンピックという大ベテラン。成田選手が私にいつも教えてくれるのは「自分の泳ぎを通して、様々な障害があるということ、社会は多様なんだということを知ってもらいたい」という思いです。

成田選手は病気で下半身に障がいがあり、両腕の力だけで泳いでいます。実はこれまでに、交通事故にあったり、けがも数えきれないくらいありました。満身創痍で、集大成として臨んだ今回の大会は、最後のレースで初めて決勝まで進むことができました。決勝に向けては「肩が壊れてもいい」とおっしゃっていました。それほどの覚悟で臨んで、結果は6位という素晴らしい結果でした。

決勝の後に語ってくださっていたのは「次の世代への期待」と「社会への願い」です。

成田「私たちのスポーツを見ていただいたときに、いろいろな“気づき”をしていただけると思うので、バリアフリーや障害者の生活の面など、いろんなものを含めて考えていただければと思います」

このレース、私は実際に会場で見ていましたが、本当に多くの選手たちが成田選手のレースを応援していました。成田選手の「多様性を伝えたい」という気持ちは、たくさんの選手に伝わっていると強く感じました。

選手たちがこれからも泳いでいくこと、それを通していろんな人たちが、多様性はもちろんですが、それぞれいろんなことを受け取っていくと思うんですね。それこそが“成田選手が残してくれたレガシー”なんじゃないかと思いました。


―わたしとって東京パラリンピックとは

この東京パラリンピックを通して、私たちは本当にいろいろなメッセージを受け取ったと思います。閉会式でひとつ区切りがついてしまうのですが、ここからがスタートだと思って、受け取ったメッセージをもう一度考えて、これから暮らしていきたいと強く感じます。

【関連動画】成田真由美 最終レースで6位入賞 | 女子50m背泳ぎS5 (運動機能) 決勝


三上大進



千葉絵里菜(主にボッチャを担当)

印象に残った選手 :杉村英孝

写真:的を狙いすます杉村選手

2021年9月1日 ボッチャ 個人 BC2 決勝

杉村選手は日本ボッチャ史上、初めての金メダルを獲得しました。優勝までの道のりにあったのは「自分らしさを追求する姿」だったんです。

杉村選手は私と同じ脳性まひで、人の力を借りなければ生活ができません。でも、ボッチャのコート上では、誰の助けも借りず、自分で選び自分で決めます。杉村選手は「ボッチャこそ、自分らしさを出せるスポーツだ」と言っていました。

そして、同じ障害のある人たちに「こういう世界もあるんだよ」「こういうすごいプレーができるんだよ」ということが伝わってくれたらうれしいとも話していました。

杉村選手がキャプテンとして率いたBC1/2団体戦で銅メダル。そして、最も障害が重いクラスBC3ペア戦では銀メダルを獲得しました。ボッチャに出会う前までは、外に出ることも少なく、行動が制限された選手たちも多かったのですが、今はボッチャが社会に出るツールになり、生きがいになっています。選手たちにとって、ボッチャは自分を表現する場所でもあるんです。

私は、杉村選手が金メダルを取ったことも、もちろんうれしいんですけれど、みんながボッチャというスポーツを知ってくれたということにとても感動しています。今回、ボッチャを、パラリンピックを知ってもらったことをきっかけに、みんながともに過ごせる社会に、ボッチャが架け橋となってくれることを願っています。

―わたしとって東京パラリンピックとは

障害のある多くの仲間が大活躍して、それを皆さんが応援してくれたことがとてもうれしかったです。

【関連動画】杉村 英孝 ボッチャ個人で日本初の金メダル|個人BC2決勝


千葉絵里菜



後藤佑季(主に陸上を担当)

印象に残った選手 :伊藤智也

写真:必死な形相でゴールを目指す伊藤選手

2021年8月29日 陸上 男子400m (T53)予選

伊藤選手は陸上・車いすクラスなのですが、今大会、直前のクラス変更という衝撃的な事態に直面しながらも、最後まで自分を信じて戦う姿に“人間の可能性”を感じました。

<突然のクラス変更>

伊藤「正直かなり、ショックでした」。
伊藤選手は大会直前、クラス分けがそれまでのT52から、ひとつ障害が軽いT53 に変更になり、メダルが有力視されていた8月27日のレース(400m・T52 )に出場することができなくなりました。

その2日後、伊藤選手が迎えた本番は400m・T53 のレース。競うのは、障害がより軽い選手たち。メダル候補から一転、厳しい戦いとなりました。それでも結果は「57秒16」と自己ベストを見事に更新。最後まで自らの可能性を信じ、走り切りました。

伊藤「僕の中で1本の指に入る、最高のレースだったと思います。競争する人間は、スタートラインに立てることが何よりうれしいので、スタートラインに立ったという証は、きっとこれから先の僕の人生に大きく、プラスに作用してくれると思います。まだまだ、次のページへ、次のページへと、ぐいぐい進めていきたいです」。

伊藤選手は、私がリポーターに採用されたときの研修の講師として来てくださった先生なんです。一時期引退されていて、その間に講師としてパラスポーツのいろはを教えていただきました。そのあと復帰されたんですが、陸上の大会に取材に行くと「お前、質問うまくなったなあ!」と、取材に行くたびに指導していただく先生でした。伊藤選手のおかげで、私もここまで勉強させていただきました。

どんな状況になっても前を向いていた伊藤選手の姿こそが、逆境の中で立ち上がる力、折れない心である“レジリエンス”というパワーをまさに体現しているのではないでしょうか。

実は伊藤選手、もうすでに走り始めているそうです。具体的にまだ、次の目標があるわけではないとのことですが、すでに人生の次のページに進んでいるようです。

これまでずっと取材させていただいて、伊藤選手の言葉で印象的なのが「一生懸命やっている姿を美しいと思いたい」ということです。国立競技場で走る伊藤選手の姿は、本当に美しかったです。

ただ、パラリンピックに出ている障害のある人たちは“すべて”ではありません。私のように聴覚障害のある人や、そのほかにも、生きにくさを抱えている人たちがたくさんいるので、そうした人たちを含めて、今回のパラリンピックが“多様な社会”を考えるきっかけになるといいなと思いました。

―わたしとって東京パラリンピックとは

国内外の選手たちを取材していると「パラリンピックで社会は変えられる」と信じている人たちが多いんです。彼らのパフォーマンス、そして伝えてくれたメッセージをうけて、私たちが“人間の可能性”を感じられた大会になったと思います。

【関連動画】伊藤智也 大会直前にクラス分け変更 ショック乗り越え 自己ベスト更新 | 男子400m T53(車いす) 予選 


後藤佑季


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