パラリンピアンとしての誇りを。フェリックス・シュトレング -ごとうゆうき・パラ陸上取材記―

陸上 2019年8月1日
写真:陸上競技場で語る

フェリックス・シュトレング選手―

2012年から陸上競技をはじめ、2016年のリオパラリンピックでは100mと走り幅跳びで銅メダル、400mリレーでは金メダルを獲得。
去年は100mで、2位に0.3秒もの差をつけ、10秒67で世界ランキング1位に輝いた、ドイツパラ陸上界のホープです。
普段はケルン大学で経済学を学びながら、日々練習を続けています。

何度か私のコラムでもご紹介していますが、ことし5月の来日でも取材する機会をいただきました。
前回は競技者としての彼に取材しました
が、今回はさらにフェリックス選手の内面へ迫ります!

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2019年5月の『ゴールデングランプリ』で優勝したフェリックス選手。

お話を聞いたのは、レースの翌日でした。

レースでは、フェリックス選手と日本人トップ選手との差は、約0.8秒。
日本人選手は義足をコントロールしきれていないことが課題だと言われています。
それについてお聞きすると、ポイントは「慣れ」、そして「過程」ではないかと教えてくれました。

そこはパラリンピックの特殊な部分だと思います。何かを変えたり、走るテクニックを変えたり、あるいは練習方法を変えたり、義肢の何かを変えたりすると、そこから、それが自然に感じられるようになるまでそれに“慣れる”というステップが必ず入ります。すぐに慣れるものではありませんから、常に努力しないといけません。

慣れるのには過程があり、その過程を信じることが大切だと思います。要するに、義肢をつけたり、ブレードを付けてジャンプしたりしただけで世界記録を出せると思わないでほしい、ということです。


「義足を使うだけでは速く走ることができない」という言葉は、日本選手からも聞かれる言葉です。
選手が使用している義足は、メーカーによる違いはあるものの、大きな差異はありません。
トップ選手も、ビギナーも、ほぼ同じ義足です。

義足を、自分の身体のように扱える選手
が、パラリンピックという大舞台に立つことができるのです。

写真:シュトレング選手(右)とわたし(左)

パラリンピックについて、フェリックス選手がどう考えているのかということも聞いてみました。

私はオリンピアンと同じように胸を張ってパラリンピアンだと言いたいのです。
パラアスリートの中には、オリンピックに出場したいと思う人がいますが、彼らは「出場できるから出場する」のです。オリンピックへの出場を重んじる方向性は違うのではと思います。
例えば、膝から上で脚を切除した人や車いすの人は決してオリンピックには出場できません。膝から上で切除した人は(スタート)ブロックから出るパワーがありませんし、そこまで速く走ることができません。そういう意味で、オリンピアンとパラリンピアンは分けて考えるべきだと思います。

オリンピアンとパラリンピアンを分けて考えるべき―。
近年、オリンピックとパラリンピックを一緒にしてもいいのではという声がある中で、この意見はとても興味がひかれました。

「全体で見たら」同じレベルで見るべきなのです。パラリンピックと言ったら、同じようなリスペクトを得て、同じように観客が集まるべきですし、オリンピックのアスリートと同じ影響力を持つべきだと思うのです。2つは分けるべきですが、同等に扱うべきです。オリンピックのアスリートの方がすごいとか、パラリンピックのアスリートの方がオリンピックのアスリートよりもすごいとかではなく、同等なのです。

分けるべき、だが、同等に扱うべき―
これは、ドイツのジャンパー、マルクス・レーム選手も話していたことでした。

具体的に聞いてみると…

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オスカー・ピストリウス(右) 2012年 ロンドン五輪 陸上 男子 400m 予選

例えば、オスカー(オスカー・ピストリウス:ロンドンオリンピック 男子400mに出場)がオリンピックに出場したら皆、大騒ぎしましたよね。彼は障害があるのにオリンピックに出場したことで大変な尊敬を集めました。でも、車いすの選手は絶対にオリンピックには出場できません。不可能です。オリンピック選手と競える競技なんてないわけですから。(限界はないと思うので、「できない」とは言いたくないのですが…)でも、価値は変わらないということを理解してもらうのが難しいと思うのです。その障害のクラスの中では、すごいことをやっているのだけれども、健常者とは比較できないのです。

たしかに、義足の選手など「立位」の選手はオリンピックに出場できる可能性は高く、実際に世界では何人かの選手が出場しています。

けれど、そうではない障害のある選手もいます。
だからといってすごくないのか、というとそんなことはなく、そのパフォーマンスには驚くことがたくさんあります。

写真:陸上競技場のシュトレング選手

だからこそ私はパラリンピックとオリンピックを分けるべきだと言っているのです。パラリンピアンたちの中で比較をし、パラリンピアンであることを誇りに思うべきです。そうすれば、健常のアスリートと比べることもなく、健常であることが有利だとか、障害が不利だとか考えないで済みます。正解はないわけですから。スポーツマンとして、オリンピックとパラリンピックの両方に出場するのは良くないと思うのです。なぜなら違う種類のスポーツなのですから。

下腿義足の選手の8mジャンプが、大腿義足の選手の6mジャンプよりもすごいわけではない。
だからこそ、パラリンピックとオリンピックを分けるべきだと語るフェリックス選手の熱い思いに、私はとても心が動かされました。

とかく、オリンピックとパラリンピックは比較されたり、パラスポーツ選手がオリンピックに出場すると、ニュースになったりします。

けれど、きちんと「分けて」考えることで、健常であることが有利だとか、障害が不利だと考えなくなる。正解はないのだから。

この言葉が、当たり前になる社会がやってくると、障害の有無は関係なくなるのだろうなと思いました。

・・・

そんな熱い思いを持つフェリックス選手、休日に何をしているのかをお聞きすると…

友人たちと過ごしたり、遊びに行ったりします。自由時間はトラックにいなければ、大学に行っています。勉強しないといけないし、宿題もありますし、授業に追いつかないといけません。
それから1962年製のスクーターを持っているんです。夏の間、これに乗っています。練習の後に乗るのはすごく楽しいです。

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フェリックス選手に送ってもらった写真。愛車と共に、ドイツで

そして、フェリックス選手、写真も趣味なのだそう。
SNSに上がっている写真はどれも、素敵な写真ばかり!

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ドイツ製の愛用カメラを構えるフェリックス選手

ちなみに好きな日本食は、ラーメン、焼き肉。
今回の来日でも、ラーメンを食べ、おいしすぎて完食!!

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ラーメンがあまりにも好きすぎて、こんなことも話していました。
レースの前に緊張することはあるかと聞いたときに…

もちろん緊張します。でも、興奮するし、緊張するとしてもレースに対してポジティブに緊張しています。それとレースを楽しもうとしています。なぜなら、いつもその瞬間のために準備しているわけですからね。

例えば、おいしいラーメンの仕込みにしても、ものすごい手をかけますよね。ラーメンの準備にしても、調理にしても。そして出来上がったラーメンを堪能したいから、一瞬で食べ終わろうとはしないでしょう。レースも同じです。レースのために準備を重ね、すべての準備を整え、用意ができたら、あとはレースを怖がるのではなく、楽しむだけです。レースを楽しみにし、心から楽しむことができるときは、いいレースになるような気がします。

「短距離はラーメンを作るのに似ています!」と、フェリックス選手は笑顔で話してくれました。
熱い思いが、ラーメンと短距離を結び付けたんですね。
これからも、世界で活躍するフェリックス選手を追いかけていきたいと思います!

後藤佑季

後藤佑季(ごとう・ゆうき)

岐阜県出身 聴覚障害(人工内耳使用) 【趣味・特技】書道準五段 手話技能検定準2級 【スポーツ歴】陸上(100m走など短距離) 【抱負】私には、聴覚障害(難聴)という『目に見えない障害』があります。目に見えない障害の存在を伝え、様々な障害のある人とない人との橋渡し役になれたらと思っています。 陸上をはじめとしてさまざまなスポーツを経験し、聞こえる者と聞こえない者の間にいる「後藤佑季」というフィルターを通して、いろんなことを伝えていきたいです!

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