進化したディフェンスの先へ ~車いすバスケットボール ワールドチャレンジカップ2019

車いすバスケットボール 2019年9月9日
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左より香西宏昭、鳥海連志、古澤拓也

8月29日~9月1日、東京・武蔵野の森総合スポーツプラザで、車いすバスケットボールのワールドチャレンジカップ2019(以下、WCC)が開催された。WCCは、東京パラリンピックに向けて強化を目的とした4か国対抗戦。オーストラリア、イラン、韓国と総当たりで予選ラウンドを戦い、その結果から最終日に順位決定戦(3位)が行われた。

日本は、予選3試合で韓国に65—42で勝利し、オーストラリアには60—77で敗れ、イラン戦では63—57で辛勝。最終日に3位決定戦で再び韓国と対戦し50—36で下して3位となった。

オーストラリアとイランは、1年前にドイツで開催された世界選手権の3位決定戦で戦った国同士。この時はオーストラリアが68—57で銅メダルを獲得した。日本は世界選手権で9位、その後10月にインドネシアで行われたアジアパラ競技大会の決勝戦でイランと対戦し、わずか1ゴール差で惜敗したという経緯がある。世界の3位、4位のチームに日本がどんな戦いを見せるのか。11月に行われる東京パラリンピック出場権のかかったアジア・オセアニア選手権、そして1年後に迫った東京パラリンピック本番を見据えて、高い注目が集まっていた。

写真:及川晋平ヘッドコーチ

及川晋平ヘッドコーチ

リオパラリンピック以降、及川晋平HC率いる日本チームが掲げているのが、攻守の切り替えの早さを追求する「トランジションバスケ」だ。固い守備から素早くシュートへと転換させていく“スピード”が、日本の骨子である。同時に、それは世界の潮流でもある。去年、2018年の世界選手権のトップ3であるイギリス、アメリカ、オーストラリアは、機動力の高いミドルポインターが起点となり、コートの5人がどんどんボールを動かしてゴールへと突進する。その精度の高さが、順位を決めていると言っても過言ではない。

日本は、去年、同じWCCでオーストラリアに予選ラウンド、決勝と2回勝利している。大会優勝を飾り、攻守ともに盤石の強さを世界選手権直前に印象づけた。

しかし、その約2か月後に行われた世界選手権では、プール戦1位通過で決勝トーナメントに進出したものの、その1回戦で対戦したスペインに1ゴール差で敗退。9、10位決定戦ではオランダと対戦し、1点差の勝利で9位にとどまった。世界一を懸けた大会で、守備から最後のフィニッシュまで崩れない世界のトップ3と比較すると、オフェンスでの日本の粗さが目立っていた。


それから1年後の本大会、日本のディフェンスは文句なく素晴らしかった。その成長は今回証明された。

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鳥海連志

8月30日に行われた予選のオーストラリア戦では、各ピリオドとも主将の豊島英、宮島徹也、秋田啓、岩井孝義、香西宏昭がスターティングメンバーとしてコートに立った。その意図を、及川HCは「最もディフェンスに優れ、リバウンドが取れるユニット」であると、言及している。

この言葉通り、持ち点3.0のショーン・ノリスと、同じく3.0のトム・オニール ソーンを主軸とした機動力あるオーストラリアの猛攻を、日本はしっかり抑えた。相手の突進の行く手を阻み、まっすぐにゴールに向かえない守りを実践している。一方的にオーストラリアに押し切られた、という印象はない。

それでも、オーストラリアが日本に勝ったのは、シュート確率の差である。3ポイントを含むシュート率で、日本の決定率は37.9%、オーストラリアは46.5%。ハードなプレスをかけられた状態の中で、ゴールを決める。オーストラリアはそれを実現し、日本はオーストラリアに劣ったのだった。

一方、世界3位のオーストラリア対同4位のイランとの予選ラウンドの戦いは75—62でイランが勝利。最終日に行われたイランとオーストラリアの決勝戦では、84—58という大差でイランが再びオーストラリアを圧勝した。そのイランに、日本は予選ラウンドで勝利している。

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豊島英


予選ラウンド3試合目にイランと対戦した日本は40分間、相手の攻撃に対してプレッシャーをかけてミスを誘い守る、オールコートプレスディフェンスを続けた。このディフェンスでは、走り回る体力とともに、相手の動きを熟知し読む力が要求される。攻撃を防ぐだけでなく、自らボールを奪いにいく。フィジカル、メンタルともに高いレベルが要求される守備の形だ。

「展開の中で一部プレスディフェンスすることはありましたが、40分間継続させるのは初めての試み」と、豊島が言う。

もともと運動量の高い日本のディフェンスだが、ボールを持った相手にプレッシャーをかけ続ける粘りが、高さで戦うイランを撹乱した。イランが日本に負けたのは、この鉄壁のディフェンスに阻まれたからである。

「日本にあって、オーストラリアにないもの。それは、スピードと激しいプレスだ」と、イランの攻撃の要となったオミドゥ・ハディアズハールも決勝戦の後に語っている。

日本はイランに15点差以上引き離して勝利すれば、オーストラリアとの決勝に進めることがわかっていた。それはまた、点差15点以上にならなければ、イランは日本に負けても決勝に進めることを意味する。イランが日本に負けたのは、「最後の決勝に向けてメンバーの調整や確認を行ったため」(ハディアズハール)。今大会では、日本が東京パラリンピックに向けての強化を目的としていたように、イランもまた実戦の場で試行錯誤していたということだ。

負けたオーストラリア戦でも、勝ったイラン戦でも、日本のディフェンス力の高さは際立っていた。それは、去年9位に終わった世界選手権や、イランとの大接戦の末準優勝したアジアパラ競技大会を経て、進化した日本の姿だ。
「日本チームの自力が、やっと確立されてきた。簡単に折れない。ベテランの香西(宏昭)や藤本(怜央)だけに頼るのではなく12人全員が同じように力を発揮できた。それは、この1年で大きく成長してきたところ」と、及川HCが振り返る。

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左より、赤石竜我、川原凜、宮島徹也。赤石は18歳(大会当時)。今大会は若手の起用も積極的に行われた


東京パラリンピック本番まで、すでに1年を切った。11月にタイのパタヤで行われるアジア・オセアニア選手権では、再びオーストラリア、イランと対戦する。
「選手権で優勝することは、東京パラリンピックでのメダル獲得の最低条件」とは、エース藤本の言葉。

負けたけれど、大接戦だったという展開は、いらない。勝つか、負けるかのガチンコ勝負。最後にどう決め切れるかである。シュートは単体ではない。コートにいる5人が繋いで運んで、フィニッシュとしてのゴールがある。

足りない部分を、どう補うのか。

「絶対に必要なのは、スタミナ。走れなくなったら、日本は終わる。勝負所で勝ち切るためには、その準備とスタミナが必要だ」と、藤本は強調する。

「(ローポインターである)自分がシュートを決めるなどして相手を崩せば、スペースが確実に生まれる。そこからまた流れ、リズムがつかめるはず」と、豊島も見据える。

「勝ち切る力は、誰かが持つものではない。12人全員が、どんな形でもどんなタイミングでも同じパフォーマンスで戦い続けることでしか、培っていけない」

及川HC の目指すチームの理想形は、薄皮をはぐような地道な努力の積み重ねの先にある。そこに到達するために残された時間は多くはない。今大会を布石にして、11月のアジア・オセアニア選手権の躍進につなげて欲しい。

スポーツライター 宮崎恵理

スポーツライター 宮崎恵理(みやざき・えり)

出版社勤務を経て、フリーのライターに。1998年の長野パラリンピックを機に障害者スポーツの取材に携わり、雑誌「Tarzan」ほか「スポーツグラフィックナンバー」などで執筆。現在、「Tarzan」「それを最大限に活かせ! パラアスリートGO!」の連載を展開中。12年ロンドン・パラリンピック、14年ソチ・パラリンピックではNHK開会式中継解説を担当。著書に『心眼で射止めた金メダル』『希望をくれた人』。日本スポーツプレス協会理事、国際スポーツプレス協会会員。

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