第55回 「守備と攻撃のニッポンスタイル」ワールドグランプリ2021(ブラインドサッカー)

ブラインドサッカー 2021年6月21日
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2021年6月5日 『ワールドグランプリ2021』にて銀メダルを首にかけるブラインドサッカー日本代表


東京大会延期前、ブラインドサッカー日本代表最後の国際試合は、2019年12月に東京で行われたモロッコとの国際親善試合。そこから1年半。ついに、ブラインドサッカーの国際大会が戻った。

5月30日に東京・品川で開幕した『ワールドグランプリ2021』。国際視覚障害者スポーツ連盟(IBSA)公認の国際大会で、2018年にスタートした。去年はコロナ禍で中止となり、今回3回目となる。参加したのは、日本を含む5か国。過去2回大会の覇者で、現在世界ランキング1位のアルゼンチン、同3位のスペイン、同14位のフランス、同13位のタイと、日本(世界ランキング12位)である。海外チームは、2週間前からのPCR検査を実施し、入国後はホテルと会場の移動だけに制限されたバブル方式による感染対策がとられた。また、大会は無観客、完全リモートで全試合が配信された。

試合は、大会参加5か国による総当たり戦の後、1位、2位による決勝、3位、4位による3位決定戦が行われる。日本は、総当たり戦で2勝2分(フランス戦1−0、タイ戦1−0、スペイン戦1−1、アルゼンチン戦0−0)。2位で6月5日の決勝に駒を進めた。過去2大会での日本の最高位は4位。初めての決勝戦に臨み、世界一のアルゼンチンと対戦。0−2で敗れ、準優勝となった。


■徹底した守備のシステムが奏功

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守備をする佐々木ロベルト泉(中央)

高田敏志監督率いる日本代表が徹底して取り組んできたのが、コンパクトな守備のシステムだ。ボールを保持する選手が強引に入ってきた時に、その選手に対して時間とスペースを与えないことが、高田監督の目指す守備である。相手選手のスピードが時速20km以上になり、味方選手との距離が3m以上離れてしまうと、ボールを保持した選手は守備の壁を抜いてゴールへと突進してしまう。反対に言えば、スピードを時速20km以下に抑え、味方同士の距離が3m以上離れずに相手選手を囲んでしまえば、簡単にカットインされることはない。

今大会、日本は1−2−1のダイヤモンド陣形で守備を行なっていたが、ボール保持する相手選手に対して、3人の日本選手がすかさず詰め寄りプレッシャーをかけた。相手選手がどこでボールを拾おうと、すぐに反応して動く。

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チューブで三角形を保ち走る選手たち(「ブラインドサッカー日本代表 組織的な守備の秘策!」2020/6/15放送 ハートネットTVより

合宿で選手たちが取り組んでいたのは、チューブを利用したトレーニングだ。選手が互いに3mの距離になるチューブを体に巻き付け、3m以上離れるとチューブが引っ張られて、スペースができてしまうことを体感する。チューブをつけたまま、選手たちは、ピッチを本番さながらに走り回る。ボールが左に動けば、3人(または4人)揃って左にスライドし、右に動けば右へ、前後左右とスライドする。このトレーニングによって、ボールを保持する選手との距離感、味方同士の距離感を徹底的に体得してきた。

「ブラインドサッカーというよりは、サッカーとしてのセオリー。人数をかけて時間とスペースを与えず、相手に突破するスピードを出させないこと。科学的にその時間と距離を計算し、トレーニングしてきた成果が出せた」
と、高田監督は評価した。

予選リーグでのアルゼンチン戦で、エース15番のマクシミリアノ・エスピニジョの戦車のような突進を防いだのも、日本のコンパクトな守備システムだった。

「相手がマキシ(ミリアノ)でも、メッシでも、同じです」(高田)
ダイヤモンドの陣形そのものは、ブラインドサッカーでも珍しいものではない。日本の守備力の高さは、選手間の距離やスピードがどんな場面でもシンクロして相手選手に対応していることにある。パワーある選手であっても、そのパワーにスピードを与えなければ、攻撃を阻止できる。それが、コンパクト守備の主眼だ。


■正確なバックパスからの攻撃で得点へ

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GK佐藤大介(中央)

今大会、攻撃面で印象的だったのは、フィールドプレーヤーがGK佐藤大介に正確なバックパスを出して、そのボールを佐藤が相手陣営深い位置にいる味方に投げ、そこを攻撃の起点にすることだ。

予選リーグ3戦目のスペイン戦で、黒田智成が決めたシュートも、まさにこの形が起点となった。GK佐藤が右サイドのフェンスに向けて出したボールを拾った黒田が、センターに回り込んで打ち抜いた。

「スペインは、シュートし終わった時、攻めてきた後ろにスペースができる。センターバックが入ってこない。その分析結果から、GKへのバックパスと、ピッチが見渡せるGKからのゴールスローで空いているスペースを狙ってボールを出す。この一連の流れも練習で徹底してきた」(高田)

「イメージ通りでした。ボールにしっかり足を当てて打ちました」
ゴールを決めた黒田も、気持ちに余裕があったと明かす。
「高い位置で攻撃の起点が作れる。バックパスからの攻撃は、練習で築いた信頼関係があればこそ成り立つ。この攻撃パターンは日本の武器だと思う」
と、GK佐藤も自信をのぞかせた。


■東京大会を見据えた厳しいシミュレーション

写真:国歌斉唱をする日本代表

今大会では、初戦のフランス戦に始まり、決勝のアルゼンチン戦までの5試合全てで、スタメンは、FW黒田智成、FWで主将の川村怜、DF佐々木ロベルト泉、DF田中章仁、GK佐藤大介という布陣だった。初戦のフランス戦で黒田に代わり佐々木康浩が、決勝戦では後半で同じく黒田に代わり17歳の園部優月がピッチに入ったが、他は5戦フル出場した。

「予選の3連戦、休養日を挟んで1戦、そして最終戦という流れは、東京パラリンピックでの試合スケジュールを想定したもの。予選3戦で勝ち点6を取れば決勝トーナメントに上がれます。東京大会の大事なシミュレーションと考えてスタメンを入れました」(高田)

初戦で勝利し、2戦目のタイを下したことで目標の勝ち点6を確保した。
「3戦目のスペイン戦で主軸を外すことも考えましたが、東京パラリンピックで勝ち上がった際の準決勝を想定して、メンバーを選びました」(高田)

今大会でも、せっかく2勝しながらスペイン戦で敗れれば、決勝戦ではなく3位決定戦に回ってしまう可能性もある。それを、決して負けが許されない準決勝と見立てて臨んだのだった。
「さらに、真剣勝負の3試合、連戦して選手がどのくらい疲労するのか、ということを確認する意味でも重要でした」(高田)

ピッチでプレーする選手にはセンサーが取り付けられており、ベンチスタッフはそのセンサーから送られてくる選手の心拍数や走行距離といったデータをモニタリングする。「決勝戦までフル出場しても、データからはこれ以上プレーをしたら危険という数値には至らなかった。選手は体力的な疲労だけでなく脳疲労も起こしていない。その上で、全力走も最後までできていた。選手たちが連戦の中でどのくらい踏ん張れるかを見極められたことは、今大会の収穫の一つです」(高田)

連戦でフル出場できる体力も、合宿で培ってきた。
「合宿では、低酸素トレーニングを取り入れて、どれだけ早く体力が回復するかというデータもとって練習に取り組んできました。低酸素トレーニングの成果として、フルパワーで走っても、短時間で回復することを実感していたので、タイムアウトはもちろん、コーナーキックなどプレーが止まった時に、呼吸を意識して体力を回復させることを、みんなで声を掛け合いながらやっていました」(黒田)

今大会フル出場した経験は、東京パラリンピック本番で底力になるはずだ。


■決勝戦から見えた東京への道

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大会MVPとなったマクシミリアノ・エスピニジョ(中央)

アルゼンチンとの決勝戦。前半10分過ぎにゲームが動いた。アルゼンチン左サイドの壁際からボールを奪ったエース・マキシ(ミリアノ)が日本の守備をかわしてセンターに回りこみ、そのまま左足でゴール右隅にシュートを決めた。同じく前半残り5分の場面。再び左サイドでボールを得たマキシが、カットイン。右足で右隅にゴール。結局、試合はマキシの2点で決着し、日本代表初の決勝戦は、0−2に終わった。

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キャプテンの川村亮(中央)

川村はこう振り返る。「(アルゼンチンやスペインなど)フィジカル面では、以前と比べてどの国相手でも日本はタフな戦いができていた。また、どのポジションに移動しても、チームの戦術をしっかり実践することができた。そこは大きな手応えでしたが、その精度をあげなければ、パラリンピックでブラジルなど他の強豪チームには勝てないということも痛感しました」

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MIPを受賞した佐々木ロベルト泉(中央)

「マキシは、ブラジルを相手に得点する世界のトップ選手。日本は、マキシのような選手相手でも、スペースを与えないコンパクトな守備をすれば止められるということがわかった」

ブラジル出身で、障害を負う前からサッカーに親しんでいた佐々木(ロベルト)も、手応えを感じている。佐々木は、予選のアルゼンチン戦、決勝戦で、高い位置からゴールチャンスを狙う積極的な姿も印象的だった。
「ドリブルしていって、相手に止められても最後までボールを運んでいくことはできたと思う。でも、フィニッシュが課題。自分のフィニッシュはチームのためだと思って、さらに磨きをかけたい」と、佐々木は語った。

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特別賞を受賞した田中章仁(右)

一方、徹底したコンパクトな守備では、ディフェンダー田中の役割は非常に大きい。相手チームからのロングパスや、ボールの音が消えてしまうループパスに対応して、きっちりとトラップする。
「アルゼンチンがループパスを多用することは、事前の分析情報としてチームで共有していましたし、代表合宿でも何度もトレーニングしてきた。特に、ループパスの場合は慌てず、一度バウンドさせて音を冷静に確認することを心がけていました」

身長161cmの小柄な田中だが、180cm、190cmを超える長身のヨーロッパ選手に対して、当たり負けしていない。
「まともにパワーで向かっていけば、負けてしまいます。相手のパワーをかわして、自分の体を入れていくという動き方を、これもフィジカルトレーナーの指導の元で練習してきました」

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高田敏志監督(中央)

初の決勝戦に臨んだ日本代表は、それぞれに今大会の収穫を掴んだ。一方で、真剣勝負だからこそ、見えてきた課題もある。

「予選リーグ4戦まで機能していた守備だが、決勝戦ではわずかに綻びがあった。そこをマキシに突かれて、2発決められた。予選のアルゼンチン戦の守備が100%なら、決勝戦は98%の出来だった」(高田)


パラリピックでメダル候補となるブラジルや中国にも同じように隙を与えれば、失点するリスクが生じる。

今大会、アルゼンチンは予選リーグの戦い方から日本を研究し、決勝戦に臨んできた。日本のキーパースローで攻撃の起点を作る攻撃パターンに対応し、壁際で待機する黒田、川村へのロングパスを、スライディングして阻んだ。これに伴い、日本はロングパスではなく、自陣12m付近にいる黒田や川村にパスを出してドリブルで相手陣営に切り込む戦術に切り替えた。

「スペインやフランス、タイには効果的だったバックパスから攻撃の起点を作る戦術も、それだけがベストというわけではありません。アルゼンチンのように、それを見破ってくる相手に対しては、戦術を変える必要があった。ただ、攻撃する選手が1人でドリブルしてあげていくだけでなく、逆サイドの選手がもう少しボールに関わるようにしないと、ボールを奪われて押し戻されてしまうリスクが生じる。相手にカウンターのチャンスを与えてしまう危険も高くなる。逆サイドとの連携で2次攻撃、3次攻撃と展開していけば、得点につながっていくはずだ」(高田)

「課題は、やはりフィニッシュ。最後に打ち切る精度です」
と、キャプテン川村が噛み締めるように語った。

写真:2021年6月5日 『ワールドグランプリ2021』にて銀メダルを首にかけるブラインドサッカー日本代表



6月14日、東京パラリピックにおける予選組み合わせ抽選会が行われた。結果は、開催国の日本がプールAとなり、同じ組にブラジル、中国、フランス、もう一つのプールBにアルゼンチン、モロッコ、スペイン、タイが入った。

初出場となるパラリンピック本番まで、残りわずか。日本が目指すのは、メダル獲得だ。
「現時点でのメダル獲得の可能性は、50%」
高田監督が睨むその確率を、どれだけあげていくことができるか。その真価は、東京パラリンピックのピッチで発揮される。

スポーツライター 宮崎恵理

スポーツライター 宮崎恵理(みやざき・えり)

出版社勤務を経て、フリーのライターに。1998年の長野パラリンピックを機に障がい者スポーツの取材に携わり、「Tarzan」「スポーツグラフィックナンバー」など雑誌やインターネットメディアで執筆。12年ロンドンパラリンピック、14年ソチパラリンピックではNHK開会式中継解説を担当した。著書に『心眼で射止めた金メダル』『希望をくれた人』『みんなちがって、それでいい』。日本スポーツプレス協会理事、国際スポーツプレス協会会員。

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